10/29(土) コンペティション『アシュカル』上映後、ユセフ・チェビ監督(監督/脚本)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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ユセフ・チェビ監督(以下、監督):皆様、今回映画を観に来場してくださって本当にどうもありがとうございます。初めての来日となりまして、我々の作品を皆様にご覧いただける機会となり非常に光栄に思っております。温かく迎えてくださったことを本当に感謝しています。
司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):それでは、まず私の方から一つ質問をして、その後場内の方々の質問を受けたいと思います。聞きたいことは沢山あるのですが、まずこのロケーション、廃墟になったビルが素晴らしいのですが、これはどのような建物なのでしょうか。また、その建物を使った意味などがありましたら教えてください。
監督:ありがとうございます。私としましては、このエリア一帯、それから廃墟と化しているこの建物が今回の映画の主役だという風に思っております。物語の最初にも紹介はしていますが、元々こういった建物がデザインされたのが2011年、チュニジアの革命で倒れたベン・アリ政権でした。お金を持っている豊かな町もあり、権力者や政権側のためにつくられた都市部でした。革命で政権が倒れ、建設が途中で止まってしまっています。私の母親が祖父からとても小さな用地ですが、土地を遺産で相続しました。そのことがきっかけで私もこのエリアを知るようになりました。チュニジアの普通の町はこの映画に出てくる場所とは違い、とても小さく、通りでいろんな人と触れ合いや交わることができるところです。ですがここはデザインからしてとてもモダンな、まるでドバイのような大型の道路を要する場所として作られていました。とてもガランとしていて、人と触れ合うことや出会うことがないような場所です。母が家を建てることになったので私もこの辺りを散策するようになり、なんて奇妙なところなのだろうと思うようになりました。廃墟の建物から見つめられているような気持ちにもなったので、その奇妙な感じが印象に残り、ここで私も映画を作りたいと思うようになりました。
Q:作品を作っていく上で、傷んだ社会をどのように立て直していくかという移行期正義に関して、監督ご自身または作っていくチームの中でどのようなことを共有して作られていったのか教えていただきたいと思います。
監督:これはあくまでも私の視点で描いた物語です。決して政治的なものを意識したことではありません。私としては、とても現代的なチュニジアのモチーフを使ってチュニジアの歴史について語りたいと思っていました。革命であったり焼身死体であったり、宗教というようなところでそういったモチーフを拝借しながらフィクションを作っていこうとしました。今のチュニジアの政治に対するメッセージを入れたかったのではありません。政治や、とても現実的な背景を使ってチュニジアの想像に富んだ景観や光景を作りたいと思っていました。それもあって、今回ジャンルとしてはカルト的な、あるいはフィルムノワールといったテイストになっています。
今ご質問者に言っていただいたように、社会は非常に傷みを感じています。だからこそ、時にすごくラディカルなものを選択しているのだと思います。それもあり、この作品には暴力をほのめかすようなこともしています。それはチュニジアには実際そういった暴力があるからです。火というのもそれを象徴しています。私からしてみれば、火や炎はエネルギーを象徴していて、そのエネルギーというのはもちろん希望を作るエネルギーでもありますが、絶望でもあります。
Q:エンディングのシーンには何かチュニジアのこの先の運命に関する寓意的な含みがあるのか、何か宗教的な意味合いがあるのでしょうか。
監督:最後の場面は決して破壊を意味しているわけではありません。炎が人を歓迎している、人そのものを歓迎している。というところがあるので観る人がどういう視点で見るかという選択次第だと思っています。私としては私が決めつけてしまうつもりはありません。だからこそどうなるかはわからないままです。例えばこれらが明るみになる、別の場所へ続く扉になるというような観方もできるのではと思っています。決して映画に現実的なことを宣言させるのではなくあくまでもチュニジアの歴史というモチーフを使うことで作品を描いていきたいと思っていました。モチーフを使ってフィクションを作るということを意識しました。私たちの国ではあまりフィクションを作りはせずになるべくリアルに見せようとします。これは勿論いいこともありますが、映画ならもっと違う可能性もあると感じています。例えば何かイメージを提示してすべての人が理解できなくても、感じることはできます。フードを被った人も顔を見せないでいれば視点によってこの人物への印象を変えることが出来ます。預言者、テロリスト、アナキスト、破壊者、救世主などいろんな角度から見方を変えることが出来ると思っています。
Q:フィルムノワールやジャンル映画を取り入れたことに対してのお気持ちを教えていただけますか。
監督:ポイントとしてまず1点目は私が最初に好きになった映画や、映画を作るにはどうしたらよいのかと考えていたときに観ていた映画に少なからず影響を受けていると思います。今回のロケーションも影響されているでしょう。奇妙であり建築的である。まるで迷路のようだと感じる部分があり可能性を感じました。二人の警察が何かを探し求めているのに探しているものを見つけられないというようストーリーを描いてきました。
2点目として、フィルムノワールもしくはコップムービーの映画として作ると距離が生まれてしまい現実的でなくなる。チュニジア映画の特徴として政治の話は触れることはあっても決して深堀はしないという点があります。ジャンル映画という枠組みにすることで外側に身を置くことが出来ると思います。私自身、映画でリアルなものをそのままに描くことはできないと思っています。できないのであれば逆に作ったほうが良いと感じているのです。ジャンルフィルムというのは政治的な話題を扱う際に強力な作品になると思っています。
市山PD:よろしければ好きな監督や参考にした映画などがあれば教えていただけますか?
監督:日本の黒沢清監督です。面白いことに撮影を始める1か月前にプロデューサーから『CURE』を観たという話を聞きました。自分も昔に『CURE』を観たことを思い出しました。脚本を書いている時や撮影準備をしている時は覚えていなかったのですが、この会話の後、観直してみたところ不思議と物語がつながっている気がしました。ビデオの世界や、不思議なキャラクターが人を洗脳して犯罪を起こさせるなど、こういった黒沢監督のリズム感やスタイル、テンポが素晴らしいと思いました。明確な認識はしていなかったのですが、プロデューサーに再度見せられた際に何か接点が生まれたのだと思います。他に好きな監督はロベール・ブレッソン監督とブリュノ・デュモン監督です。