2022.10.28 [イベントレポート]
「どのようにして気の合う仲間とチームを結成して、一緒に仕事を完成させるかというのが、私にとって何よりも大事なことです」10/27(木) Q&A:アジアの未来『へその緒』

へその緒

©2022 TIFF

 
10/27(木) アジアの未来『へその緒』上映後、チャオ・スーシュエさん(監督/脚本・写真左)、リウ・フイさん(プロデューサー・写真右)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
チャオ・スーシュエ監督(以下、監督):皆さん、こんにちは。私はこの映画の監督で、チャオ・スーシュエと申します。皆さんと一緒にこの映画を観ることができて、とても嬉しく思っています。
 
リウ・フイさん:皆さん、こんにちは。私はこの映画のプロデューサーのリウ・フイと申します。皆さん、わざわざ映画館に足を運んでいただき、本当にありがとうございました。また、皆さんがこの映画をご覧になって作品を気に入ってくれたら大変嬉しいです。
 
司会・石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):上映は一昨日にすでに1回行われまして、今日がワールドプレミアの2回目です。前回のQ&Aセッションで出た話を簡単にお話しした上で皆さんからの質問を受けたいと思います。
お二人とも内モンゴルの出身でいらっしゃいます。監督はフランス留学をされて、お帰りになってからフランス式の映画の作り方をされています。現地のスタッフ、キャストの調達をリウさんがされて、フランス式と内モンゴル式の両方のいいところを組み合わせてこの映画を作ったというお話でした。

 
Q:この映画は全編モンゴル語で語られていますが、中国映画の中では全編モンゴル語でしゃべる映画は非常に作品としては少ないです。しかも、少数民族をテーマとする中国映画は非常に少なくて、興行成績もうまくいかないところもあります。この辺りについて、監督はどのような考えでこの作品を取り組んだのでしょうか。
 
監督:ご存じのように映画というのは一つの世界だと思います。この世界の中にはいろいろな国、民族、人種、言葉を話す人がやってきます。私たちは中国語圏なの世界にいるのですが、いろんな映画を観てきました。
私にとって、言葉はそれほど重要なものではありません。これはあくまで自分と自分の家族、友人、周りの人々を表現するための一つの手段であり、場合によっては人と人を結び付ける絆のようなものだと思っています。
その上でどうして私が全編モンゴル語を使って映画を撮らなければいけないのかというと、私にとってモンゴル語は母国語であって、自分の周りもモンゴル語で話す人ばかりです。やはり自分の世界を表現するにはモンゴル語しかないと考えました。
 
Q:同じ女性として、非常に若くて女性である監督が素晴らしい仕事をしていて、勇気づけられます。映画業界はやはり男性が中心の業界ですので、このような職業として監督はどのように考えられているのでしょうか。
 
監督:私自身が女性であるからといって、性別と職業をわざわざ区別する必要性を考えたことはありません。
やはり、この業界で働くには能力が大事だと思います。能力というのはコミュニケーションの能力だと思います。どのようにして気の合う仲間を見つけてチームを結成して、一緒にこの仕事を完成させるかというのが、私にとって何よりも大事なことです。
例えば、あるチームの中で監督が非常に尊敬されている場合、それは監督だからではなく、実力次第だと思うのです。一生懸命この仕事を成し遂げられるかということにかかっていると思います。
 
Q:どうしてこのような地方の母と息子という題材を選んだのでしょうか?
 
監督:この映画のアイデアを考えた当初、私はフランスで映画を学んでいて、そろそろ卒業が近づいてきた頃でした。故郷を離れてよその国で暮らしをする人は多くが経験すると思いますが、私も時々母親のことを思い出していました。
ふと、自分の母親に対して「ああ、まだ無事に生きているのか」というような思いがありました。
当時、私と母親の関係はあまり上手くいっていなかったうえ、家の中でもいろいろなことがあったので、卒業を控えて、フランスに残って勉強したほうがいいのか、国に戻って自分の撮りたい映画を撮ったほうがいいのかちょうど迷っていました。
そんなある日、ある中年女性に偶然出会いました。彼女の外見は私の母親に非常に似ていて、お母さんじゃないかなと錯覚に陥ってしまいました。その女性といろんな話をしていくうちに、彼女が躁鬱症を患っていて自殺しようか悩んでいることを知ったのです。
そこからインスパイアされて、この話を元にショートフィルムのような作品を作ろうと考えていましたが、そこに自分と母親の関係を付け加えて中国に戻って内モンゴルで作品を撮りました。この作品はある意味では自分の母親、内モンゴルのための作品だと思っています。
 
Q:ミュージシャンの息子という設定についてエピソードを教えていただきたいです。
 
監督:この映画に出演している役者のほとんどは、普段でも内モンゴルの言葉、しかも方言をしゃべっている人たちなんです。
主役の男の子も音楽を勉強するために、内モンゴルから北京に移った人です。彼は、小さい時から内モンゴルの伝統楽器である馬頭琴を学んでいました。馬頭琴は、先端のところに馬の頭がついていて、二胡みたいな楽器です。
彼は今も音楽を勉強していますし、のちに電子音楽も手がけて、民族音楽と融合するような音楽創作活動をずっとしてきたんです。彼のこういった取り組みは今の中国ではたくさんの若い人たちがやっていて、彼らは現代の音楽あるいは楽器を一つの表現手段として使っていて、どうやって民間の伝承を受け継いでいくかといったことをずっと考えてやってきています。ある意味、彼はこの役目にピッタリだと思いました。
 
石坂SP:ありがとうございました。最後にプロデューサーのリウさん、この映画はこの上映が初めてということで、これから中国を含めたいろいろな国の上映に向かっていると思いますので、どうぞ改めてご紹介してください。
 
リウ・フイさん:皆さん、どうもありがとうございました。
この映画について、私たちプロデューサーが、初めてこの脚本を観た時には本当に心が打たれました。脚本自体がとても純朴だったからです。つまり、自分のふるさと、自分の母親に対する情感や愛情、伝統に対する思い、人と自然、あるいは音楽と命との関係です。もろもろの要素には、本当に感動させられるものがたくさんありました。私も監督と一緒にこの映画を準備していた時にいろいろなことを考えました。
今回この作品に参加してくださったチームには、本当に一流の編集者、カメラマン、音声などの現場のスタッフ、そして素晴らしいプロデューサーがいらっしゃいます。みんな今までにたくさんの映画製作に関わったことがありまして、とても豊富な経験をもっています。彼らがいたからこそ、このような素晴らしい脚本を、あるいは脚本の中で伝えようとしている人間の優しさや情感豊かな人間的なところを全部映画の中に盛り込むことができました。
私としては、この映画をご覧になって皆さんが気に入ってくだされば、この映画が伝えようとしている人間の優しさや情感といったものを伝えてください。ぜひ周りの人たちに声を掛けて我々のために、この映画のために宣伝してください。よろしくお願いいたします。

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