2022.10.28 [イベントレポート]
「エクタラ・コレクティブは大きなグループで、様々な背景を背負った方々が集まっています」10/27(木) Q&A:アジアの未来『私たちの場所』

私たちの場所

©2022 TIFF

 
10/27(木) アジアの未来『私たちの場所』上映後、マーヒーン・ミルザーさん (脚本/撮影監督)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
マーヒーン・ミルザー(以下、ミルザー):まず皆さまに心からお礼を申し上げたいと思います。ここにこうして来られたこと、大変幸せに思っています。そしてエクタラ・コレクティブを代表して、この東京国際映画祭で世界プレミア上映に出席できたことを大変嬉しく名誉に思っております。そして観客の皆さま、この映画を辛抱強く最後までご覧くださって本当にありがとうございます。
 
司会・石坂健治シニア・プログラマー:個人の監督名を冠しない創作集団エクタラ・コレクティブはどのようなグループで、どんな活動をされているのかを教えてください。
 
ミルザー:エクタラ・コレクティブは大きなグループで、様々な背景を背負った方々が集まっています。例えば低いカーストの人々、労働者階級の人々、性的指向の上でのマイノリティ、同性愛者など社会の底辺に位置させられているような人たちがたくさん集まっています。こういった様々な人々が私たち自身の抱える問題意識を共に表現していこうとしているのがエクタラ・コレクティブです。そして表現する上でアーティスティックな方法を選びたいと思ったのです。なぜなら私たちは往々にして映画や様々な芸術形態の対象にはさせられる、私たちを描いた作品は多いのですが、私たち自身の声が反映されているとは必ずしもいえません。私たちのコントロール外のところでそういう作品が作られているからです。ですので、私たち自身が持つ興味深い話を語るために自分たちで表現をしようと考えました。その上で映画という媒体を選んだのは自然な流れでした。映画には画像もあれば音楽もあり、大きなキャンバスにどんな絵でも描けるという感じがするからです。また映画でしたら、例えば文学などには馴染みがない、あまり教育などを受けていない人にも分かってもらえると思ったのです。そういう上で民主的な表現だと考えて映画を選びました。
 
石坂健治シニア・プログラマー:監督という肩書きの方が付いていませんが、一般的であれば映画というのは監督が頂点にいるヒエラルキーで作られるかと思います。そういうことに対しても何かお考えがあってこのようなクレジットタイトルになっているのでしょうか?
 
ミルザー:実は監督という名前が出ていない理由は、みんなで編み出したビジョンを元に作った作品なので、誰ひとりとして監督と名乗れる人がいないからです。芸術作品などで一人だけがすべて何かを行って作品を作られるということは本当に少ないと思うのです。このように意識した上で、私たちは色々な議論をすることでビジョンを作り出します。そのビジョンはコレクティブのメンバー全員が“それで良し”、と感じられるものであり、自分自身のものだと感じられ、全員が何らかの貢献が出来るものであるという必要があります。そう聞くと、この映画にはビジョンとか演出というものがなかったのかというような印象を与えてしまうかもしれませんが、そうではありません。集団で話し合った上でのビジョンがあり、皆で決めた演出方法があったわけです。
 
Q:脚本を担当されているということですが、脚本を作る過程も皆さんとご相談されていたのでしょうか。
 
ミルザー:エクタラ・コレクティブには性的嗜好の上でマイノリティにあたる人たちは沢山います。それは確かですが、コロナ禍でロックダウンになったときに、この映画の主人公になっている人たちと私たちは出会ったのがきっかけです。インドでのロックダウンは本当にひどい状況でした。そういったなかで、トランスジェンダーの人々が生計を立てるために行うような仕事が全く出来なくなりました。その結果、日々の食べ物にも困る人、嫌々生まれ育った本当の家族のところに戻らないといけない人、住宅を探そうとしてもなかなか住宅難で家が見つからないという状況がありました。
そのロックダウンのときに、“ライラ”を演じたマニーシャー・ソーニーと彼女の友達である“ローシュニ”役を演じているムスカーンに出会いました。二人とは親しくなって、色々と話をしたのですが、ロックダウンという危機的状況が去れば、このような友情というものも自然消滅してしまうと思っていました。けれどこの二人とは危機的状況が無くなった後も、親しい友達のままでした。それから色々話をするうちに、この状況を一緒に映画にしないか、という話になっていき、脚本を書き始めました。もちろん、集団で作った映画ではありますが、皆それぞれ得意分野というものがあるので、自分の技術を映画に持ち込んでいきました。なので、脚本も書く際は何度も何度も討論を重ねて、3~4か月かけてようやく書き上がった脚本です。特に児童向けのものを書いている方が(脚本作りに)大きな貢献をしてくれました。
 
Q:エクタラ・コレクティブのバックグラウンドとなっているマディヤ・プラデーシュ州のボーパールという町は、1984年の化学工業事故、世界最悪の産業災害を思い出されるのですが、この産業災害が未だに社会とか映画に与えている影響というのがあるのでしょうか?
 
ミルザー:ご質問通り、1984年に化学工場でのひどい事故がありましたが、それは今日に至るまで私たちの心身に大変大きな影響を与えています。体だけではなく、心理的な影響も大きく、これは世代を超えてずっと影響を与え続けています。人々は未だに補償を待っている状態です。あの事故は一度起こったというだけではなく、政府、そして個々人の人生に今も大きな影響を与えていて、人々は今も反対運動をしています。けれど残念ながら毒物が地下に埋められたために、現在も地下水が汚染されており、私たちは今も汚染物質を飲まされているのです。これらが映画作りに直接的、間接的に影響を与えたかどうかということに関しては、芸術というのはこういった大きな問題に対して深い考察をしたり、何らかの発信をしたりするという点があるので、やはり影響があるのかもしれません。そして未だに大勢の人々があの事故によって影響を受けており、毎年その日を皆で偲ぶ行事が行われています。あの事故は私たちの心身に今も深く刻み込まれています。
この映画を作る上で同じようなテーマで作られた映画を主人公の二人と一緒に作品を観ました。様々な作品を観ていく中で2人が「私たちは自分たちの映画の中であんなことは絶対に言いたくない」とか「あんなことは絶対したくない」など言いながら観ました。2~3本、とても参考になった映画があるのですが、その内の1本が最近の作品である『タンジェリン』という作品です。実はトランスジェンダーというこの存在自体が合法化されたものの、彼ら、彼女らの仕事というのは大変に限られています。今は、いくつか新しい仕事も作られましたが、いくら合法化されたとはいえ、社会の人々が彼らに抵抗感を感じてしまっています。ですから、人々の意識を変えるために啓蒙していく必要がありますし、そしてまた私たち自身ももっと考えを深めていく必要があると思います。
 
Q:この映画は他のどこの国で上映されるのでしょうか?
 
ミルザー:他の国のみならず、インドの各地でぜひ上映したいと思っています。そして既にインドでの初公開はケララ国際映画祭で行うことが決まっています。映倫に関しましては、特に問題はないのではないかと思います。とてもいい作品に仕上がっていると思うので。私たちが気を付けないといけないのは、自分たち各々の心の中にある偏見だと思います。これを私たちが克服することが出来れば、映倫も問題ないと思っています。

新着ニュース
2023.01.27 [更新/お知らせ]
オフィシャルパートナー