2022.10.27 [イベントレポート]
「キャストが流していた涙は、彼らの気持ちから自然に出た涙です」10/25(火) Q&A:Nippon Cinema Now『彼方の閃光』

彼方の閃光

©2022 TIFF

 
10/25(火) Nippon Cinema Now『彼方の閃光』上映後、半野喜弘監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会:石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SP):それでは監督から一言ご挨拶を。
 
半野喜弘監督(以下、監督):本日はこの長い、長い映画を観てくださってありがとうございます。本当に実現するはずのなかった映画が出来上がってこうして皆さんに観ていただけるのが今日この日だった、というのが僕の感想です。
本当にありがとうございます。
 
石坂SP:コロナ禍でこのような大作ができあがるということでびっくりしています。インディーズというには規模が大きく、メジャー会社の大作とは全然違うと思うのですがいかがでしょうか?
 
監督:そうですね。志を共にした人の集合体が作った映画だと思っていて、そう意味では自主映画ということでいいんじゃないかと思います。
 
石坂SP:今回、脚本、監督、音楽もご自身でやっておられます。音楽までやる方はなかなかいらっしゃらないと思いますが、順序としては脚本を書いて、監督して、そのあとで曲が出来たのか、それとも何か音のイメージが先にあったのでしょうか?
 
監督:通常は映画音楽家としてもやっていますので、今回この映画の音楽を考えるにあたって非常に悩みました。ふと思ったのがこの映画は過去もあり、現在もあり、未来もあり、という時間の流れみたいなのが大きなテーマなので、僕も過去の人生を振り返ってみるのもいいかな、と思ってあえて新しい曲を一切作らずに、これまで作ってきた曲の中でこの映画と共鳴するものを選び出してそれをもう一度組みなおす、というやり方で音楽を作りました。だから作ったといえば、昔の僕が作った、という感じです。
 
Q:2点質問です。1つはどういう志を共にした方々が集まって作られた映画かを教えていただきたいです。それから、映画の中で非常に佐喜眞美術館が印象的ですが何か思いが投影されているのであれば、伺いたいです。
 
監督:まず志ということですが、この映画の内容、そしてテーマ、事件性、ドラマ性、色々なことを含めて、沢山の人に相談してみたのですが、「いや、不可能だ」と言われることがほとんどでした。その中で不可能だからやめるのではなく「いや、やってみようよ」という気持ちを持った方々がいらっしゃいました。これは言うのは簡単ですが、やってみたけど映画が出来なかったというのはどういう状況かというと、途中でトラブル、コロナなどで出資者はお金を失う、もしくは僕たちが借金を背負ってしまう、俳優はせっかくした演技が作品に結実せずに水の泡になってしまうかもしれなかったのです。それはスタッフも同じで、脚本を書いてもそれはまた無駄になるかもしれない。僕たちには潤沢な資金や準備が出来る時間、撮影が出来る時間があったわけではないので、たった1日天候が悪かった、誰かが怪我をした、コロナウイルスに感染した、そういう場合にはこの映画は完全になかったことになってしまう、という前提で撮影を始めました。
ただ、奇跡的に1か月以上の間何事もなくクリアできたっていうのは本当にどうしてなのかわからないですが、ほとんど渡れる可能性のない綱渡りを一緒にやってくれた仲間が持っていた志、僕が言っている志はそういう意味です。
 
佐喜眞美術館の絵に関しては、僕が大きな感銘を受けたということはもちろんなんですが、実はこの映画は戦争であったり平和であったり、僕は戦争という言葉は言葉としてフェイクだと思っていて、戦争ではなく殺人だと捉えています。その中で今回主人公含めてそれを過去の戦争の時代、人殺しがあった時代としての物語を描くわけではなく、現代という場所からそれをどのように見るか、どのようにしてそれを感じ取るかという描き方をすべきだという風に感じて、それで場所に関しても現在ある場所、そこに行ける場所そういうことを考えてロケ地を選びました。美術館もこれに沿うことです。
そして後半の方でも出てくる防空壕なんですが、そこは本当に1,000人以上の方が短い期間ではありますが苦しい生活をして、大勢の方が亡くなり、幸いにも生き残った方もいるというそういう場所でした。そこだったら“糸洲”は芝居を超えた彼の本当の想いを言葉に出来ると思いました。それを聞いた“光”は本当の表情ができる、だからどうしてもその自然の防空壕で、その中に撮影隊が入って撮影をするということをしました。
 
Q:眞栄田郷敦さんと一緒にお仕事されて一番印象に残っていることを教えてください。
 
監督:恐らく皆さんが一番驚かれたのは眞栄田郷敦がこの役をやるんだ、この映画に出るんだってことだと思います。僕が”光”っていうキャラクターを見つけあぐねている時に彼の写真を見て、その目を見て、彼こそが僕の探していた”光”だ、と思って彼にオファーをすることになったんですが、正直僕はやるはずないと思ってました。でも彼は脚本を読んですぐにやるという返事をしてくれました。実際現場で僕が一番感じたことは、あの純粋さ、そしてまっすぐさ、これだけ嘘のない人間がいるのかなというくらい正直な人物だということです。僕よりもはるかに若いですが、これほど器の大きな人間、人として大きさのある人間を僕はあまり知らないなというくらい魅力にあふれた人間だと思います。役者である以前に人としてそういう人だと僕は思っています。
撮影の時の話ですが、今回の映画の中ですべての俳優さんが涙を流すというシーンが描かれています。けれど僕の記憶では涙を流すシーンとして脚本にあったのは1シーンだけのはずでした。キャストが流していた涙は脚本に書いていたわけではなく、その場で彼らの気持ちから自然に出た涙でした。

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