2022.11.02 [インタビュー]
「イスラエル人にとって居心地が悪くても、時代を映す鏡を提示する必要がある」ーー第35回東京国際映画祭 アジアの未来部門出品作品『アルトマン・メソッド』ナダヴ・アロノヴィッツ監督、マーヤン・ウェインストックさん(俳優)、ニル・バラク(俳優)さんインタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー:
アルトマン・メソッド
ナダヴ・アロノヴィッツ(監督/脚本/プロデューサー/編集)、マーヤン・ウェインストック(俳優)、ニル・バラク(俳優)
 
公式インタビュー

©2022 TIFF 左からニル・バラク(俳優)さん、マーヤン・ウェインストックさん(俳優)、ナダヴ・アロノヴィッツ監督

 
イスラエルで女優として再起を目指すノアは、空手道場を営む夫ウリの経営不振を心配していた。だが、ウリはパレスチナの女性テロリストを殺害したことで、一躍、時の人になる。経営も安定するがノアは釈然としない。やがて、夫の言動から真相が明らかになる――。テルアビブ生まれのナダヴ・アロノヴィッツの長編初監督作は、イスラエル社会のパレスチナ人への偏見、差別を浮かび上がらせる。ユダヤ人のメンタリティを知るには恰好の作品だ。
 
――とても興味深く拝見しました。アイデアはどこから生まれたのですか。
 
ナダヴ・アロノヴィッツ(以下アロノヴィッツ監督):2015年から2016年頃に、イスラエルのパレスチナ人が、国や軍に対して蜂起しました。蜂起と言っても、組織化されたものではありません。男女年齢問わず、キッチンナイフからスクリュードライバーなどを調達して、イスラエル人に対して攻撃しました。そうした事件の結果、YouTubeにイスラエルの武術家による自己防衛ビデオが多数上がり、それがブームになるくらい盛り上がりました。それは自己防衛を謳っているのですが、出来の悪い道場の広告にもなっていました。これが私の頭にずっとこびりついて離れず、どんどんストーリーが膨らんでいったという感じです。
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――個人レベルの蜂起とのことですが、蜂起にはきっかけがあったのですか?
 
アロノヴィッツ監督:1980年代に一大蜂起がありましたが、私はまだ子どもでした。2番目は私が20代の頃。ですからこれが、第3の事態と言えるかもしれません。原因は特定の出来事というより、パレスチナ人のイスラエルにおける状況です。生きていく上でかなりの抑圧を受けていると感じています。イスラエル人の私は、彼らの心情を十分理解できませんが、行動に結びつく気持ちは理解できます。絶望感で、国として行き詰まっています。ここまで出口が見えないと、やはり極端な行動に出ます。
 
ニル・バラク(以下バラク):監督に同意します。イスラエルとパレスチナ、両方のリーダーが何も解決策を提示できていません。ある意味、こういう対立構造というのは、為政者にとって都合がよくもあります。どちらにも動きようがない膠着した状況というのは、ある意味都合よく使えるということです。
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――ヒロインは、パレスチナの人たちに対して無意識のうちにマウント的な態度が現れている気がします。
 
マーヤン・ウェインストック(以下ウェインストック):本作のヒロインはそこをあまり考えないで生きていますよね。本当に何が起きているのかは、当事者にならないと切迫して考えることがありません。彼女にとっては、予期していないことが起き、愛する夫に欺かれたわけです。彼女が怒っているのは、夫が犯した殺人という行為よりも、彼が嘘をついたことです。お互い助けて支えている合意があったはずなのに、嘘をつかれた。そのショックの方が大きいわけです。状況に対して「占領」という言葉を使うと多くの人が何を言っているのかと言いますが、政府ではなく国民がどう見るかが問題なのです。
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アロノヴィッツ監督:政治的に起きていることは、世界のどこでも個人の生活に影響を及ぼすものです。特にイスラエルの極端な状況は、パレスチナ人でもイスラエル人でも、生活に影響しています。観客にその部分が伝われば嬉しいと考えています。
 
――監督にとって、最初の長編劇映画で、この題材を選んだことは話題を呼んだと思います。
 
アロノヴィッツ監督:TIFFがワールド・プレミアなので、イスラエルではまだ公開されていません。この作品は、私の制作会社のみで作りました。撮り終わって、ポストプロダクションの公の助成金を得るために、フィルムファンドに見せましたが、リアクションは微妙でした。この映画はイスラエル人にとっては見ていて居心地が良くないし、できれば避けて通りたいと考えているようです。一方で、最後までどうしても見たいという抗しがたい気持ちがあったようでした。これこそが映画の素晴らしいところです。
 
バラク:シェイクスピアの「ハムレット」の台詞で「芸術家の仕事というのは、鏡を提示して時代を映し出す役割がある」とありますが、まさにそれではないでしょうか。
 
――脚本を書き終えて、おふたりをキャスティングした理由は何かあるのでしょうか?
 
アロノヴィッツ監督:最初に言っておくと、マーヤンとは実生活でもカップルで15年経ちます。もちろん、それだけが理由ではありませんよ。書いている時点で当て書きはしていません。キャスティングにふさわしいのは誰かなと考えていくうちにヒロインは彼女かもしれないと悟り、彼女にあわせてストーリーを少し変えました。相手役に関しては、オーディションを行いました。バラクを見て、彼こそ「ウリ・アルトマンだ」と直観しました。
 
ウェインストック:私たちは、若者向けの舞台で2度共演しました。ナダヴから「今日このシーンをニルと撮るよ」と見せてもらったら、バラクの話し方と全く同じに書かれていたから驚きました。私もバラクも即興演劇を得意としています。
 
アロノヴィッツ監督:この役には、即興の資質が大事です。台詞もあるのですが、そこから感情を汲み取る作業のできる俳優ではないと難しいのでバラクが適任でした。
 
――作品を見て、彼女の表情の変化を映像に掬い上げていて見事だと思いました。
 
ウェインストック:18歳からプロとして活動しています。イスラエルの軍隊に入隊した時に、僅かな人しか参加できない娯楽の慰安隊に入りました。小さな地方の出身でしたが、選ばれたことで、これを職業にしようと決めました。商業的なものと非常に実験的なもの、小規模で実験的な演劇を経験して、今ではテレビにも出演しています。
 
――監督と会ったのはテレビなのですか。
 
アロノヴィッツ監督:偶然、道で出会ったんですよ。(笑)同じ業界とは知りませんでした。
 
――最後の質問です。監督の次の作品について教えてください。
 
アロノヴィッツ監督:現在、執筆中なので多くは言えないのですが、刑務所から出て何も希望がない男が、トンネルの先に光は見えないけれど、ちょっとだけ希望が見えてくるというような話です。やや政治スリラーでもあり、主人公はパレスチナ系イスラエル人です。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

 
 
第35回東京国際映画祭 コンペティション部門
アルトマン・メソッド
公式インタビュー

©A.N Shvil Productions Ltd.

監督:ナダヴ・アロノヴィッツ
キャスト:マーヤン・ウェインストック、ニル・バラク、ダナ・レラー

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