2022.11.01 [インタビュー]
「三人三様のキャラクターの区別がはっきり分かるよう、気を遣いました」ーー第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『輝かしき灰』ブイ・タック・チュエン監督、レ・コン・ホアン(俳優)、ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン(俳優)インタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー:『輝かしき灰ブイ・タック・チュエン(監督)/レ・コン・ホアン(俳優)/ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン(俳優)
 
公式インタビュー

©2022 TIFF (左から)レ・コン・ホアンさん(俳優)、ジュリエット・バオ・ゴック・ドリンさん(俳優)、ブイ・タック・チュエン監督

 
ベトナムを代表する作家グエン・ゴック・トゥの短編小説をもとに、『漂うがごとく』(09)でヴェネチア映画祭オリゾンティ部門の国際映画批評家連盟賞を受賞したブイ・タック・チュエン監督が映画化。ベトナム南部の貧しい村に住む3人の女性。夫と姑に召使い扱いされるホウ、子どものような夫の世話をするニャン、レイプをされた過去を持つロアン。やがて孤独な彼女たちの暮らしに、小さな変化が訪れる…。チュエン監督に加え、ホウ役のジュリエット・バオ・ゴック・ドリンさんとその夫ズオンを演じたレ・コン・ホアンさんにお話を聞いた。
 
――映画化のきっかけは?
 
ブイ・タック・チュエン監督(以下、チュエン監督):私は、いつも女性の魅力というものに興味を持っています。ベトナムの女性は特に強い。強さの魅力があるのです。ベトナムは、家長制度の歴史が長く続いているので、家庭でも男性が威張っていて、女性に甘やかされている。だから、怠け者の男が多いんですけど。(笑)
じつは前作『漂うがごとく』でも、女性の強さと男性の弱さを描きましたが、今回は原作にあったストーリー性とラブストーリーに魅了されました。それに加え、地域性にも惹かれました。原作では読んでいましたが、実際にメコンデルタ、ベトナムの最南端の土地に行ってみると本当に特別感を感じました。
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――時代背景は現代ですか?
 
チュエン監督:現代ではなく、なにもない原始的な世界というか…。たとえば、全てを自然に任せている村。バナナでお菓子を作るのも、機械でドライフルーツにするのではなく太陽で乾かすとか。マングローブの密林とか。どこか時の流れの止まった世界でしょうか。
 
――三人三様の物語を絡めながら、ベトナムの女性像を浮き彫りにしています。演出や手法で意識したところはどこですか?
 
チュエン監督:多くの試練はありました。まず3人が持つそれぞれ違う個性、環境、想い。それを描く前にかなり研究をして。そうでなくても女性ってとても複雑でしょ? だから繊細に、細心の注意を払って。それから外国のお客様に観ていただく時に、キャラクターの区別がはっきりつくように描くことも大事でした。同じアジアのお客様は区別がつくと思うのですが、ヨーロッパの方は間違えることが多い。ですから、いかにキャラクターにわかりやすく差異をつけるか、かなり気を遣いました。
そういう意味でも大いに助けになったのが、ストーリーの豊かさと、男女の仕事の多様性。男にしても女にしても、ちょっと珍しいやり方の仕事をしていますから。それに環境の違い、様々な表情を見せる水の風景も助けになりました。たとえば、ホウの家の前を流れる川は分刻みで景色が変わるんです。さっきはこっち方向に流れていたのに、3時間後には逆流していたりとか。撮影の材料には事欠きませんでした。
 
――漁師であるホウの夫ズオンも、海上に何本も立っている柱につないだロープを素手で渡りながら漁場に行くという珍しい手法でした。演じる難しさは?
 
レ・コン・ホアン(以下、ホアン):ズオンは無口な男だけど“やる時は、やる男”だと思っていたので、そこが強く出せればいいなと思っていました。でも難しかったのは細かいシーンではなく「もっと上手く演じたい」という気持ち。というのも監督ご自身が俳優なので、シーンごとにお手本演技をして見せてくださる。僕としては、それより上手く演じることが難しくて悩んでいました。もっとも、裸でロープを渡るシーンだけは、監督のお手本なしでしたけど(笑)。
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チュエン監督:そりゃ、僕には無理!(笑)
 
――ホウ役の難しいところは?
 
ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン(以下、ドリン):初めてオーディションを受けた時は13歳で、撮影は18歳になってからでした。その5年の間に監督と何度かお会いして、いろいろお話をしてホウを考えてきました。ホウも最初は16歳で初恋をして女性として成長をしていく。結婚して、子どもを生んで母になって…。私としては彼女の移り変わる内面を演じていくことに、なかなか自信が持てなかったです。彼女は胸の中にたくさんのことを秘めていますから。
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――台詞も多かったですね?
 
ドリン:そう、そこがいちばん難しかったです。夫は無口だし、まったくホウに関心を持ってくれない。その心の隙間を埋め合わせるかのように、彼女はいつでも喋りまくっている。しかもその話には内容も結論もない、繰り言ばかり。そういうことをずっと喋り続けながら、夫が自分に目を向けてくれない“痛み”とか“孤独”をどう表現したらいいのか悩みました。
 
――監督ご自身が難しいと思ったのは?
 
チュエン監督:(即答で)資金繰りです! オーディションから撮影までに5年かかったのも製作費が集まらなかったから。その間に、このプロジェクトを持ってどれだけの映画祭を回ったことか! ベトナムで独立映画を作るのは、本当に難しいことです。ふたつ目は、やはりコロナ禍での制作。ベトナムがロックダウンになってしまって、撮ろうと思っていたシーンを諦めました。今までなら、もっと良く出来たのにという思いはあります。
 
――ロックダウンの様子を収めたドキュメンタリー『Fearless』を撮っていますね?
 
チュエン監督:『輝かしき灰』の撮影が終わりポストプロダクションに入る頃にコロナ規制が厳しくなって、外出もできなくなりました。編集もオンラインでやったりして、本当に辛くなってしまったのです。映画に対する気持ちが薄れたというか。「みんなが苦しんで、人が亡くなっている時に、こんなことをしていていいのか?」という罪悪感を感じたり、これからどうなるんだろうと不安になったり。すごく絶望していた時に、やっと家から出てもいいことになったのでドキュメンタリーを撮ることにしました。そのことでなんとか鬱にならず、私のクリエイティビティのエネルギーが湧いてきた感じですね。現在、1作目が配信中ですから、この後も続けて5作シリーズにするつもりでいます。
 
 

インタビュー/構成:金子裕子(日本映画ペンクラブ)

 
 
第35回東京国際映画祭 コンペティション部門
輝かしき灰
公式インタビュー
監督:ブイ・タック・チュエン
キャスト: レ・コン・ホアン、ジュリエット・バオ・ゴック・ドリン、フオン・アイン・ダオ

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