2022.10.26 [イベントレポート]
漂流団地、ウラシマトンネル、水の惑星のつくり方 “団地かぶり”の偶然に「まさか」
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登壇した石田裕康監督、田口智久監督、黒川智之監督(左から)

第35回東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門マスタークラス(シンポジウム)「アニメーションで世界を創る」が10月25日、東京ミッドタウン日比谷 BASE Q/マルキューブで開催された。『雨を告げる漂流団地』の石田祐康監督、『夏へのトンネル、さよならの出口』(以下、『夏トン』)の田口智久監督、『ぼくらのよあけ』の黒川智之監督が登壇し、アニメ評論家の藤津亮太氏による司会で“アニメーション映画がどのようにビジュアルをつくりあげていくのか”が語られた。

ジャパニーズ・アニメーション部門のプログラミング・アドバイザーである藤津氏は、登壇した3人の監督が手がけた新作を、「どれも作品の背骨と言える強いビジュアルイメージをもっていた」と語り、3作の作品世界がどのようにつくられていったのかを語ることで「アニメの今が見えてくるのではないかと思った」と企画意図を説明。石田監督、田口監督、黒川監督にそれぞれの作品のビジュアルをどのように発想し、つくりあげていったのかがたずねられた。

企画書の段階から“漂流する団地”を描いていたという石田監督は、少年少女が漂流するさいにありうる状況を考えていくなかで見慣れた団地を船にすることを思いつき、「描いた瞬間、「これだ」と思った」と振り返る。最初はプロデューサーなどから「なぜ団地なのか」と突っこまれたそうだが、最終的にはスタッフ一同「ありえないけれど、見てみたい」と思うようになっていったのだそうだ。

『夏トン』には、入れば欲しいものがなんでも手にいれることができるという「ウラシマトンネル」が重要な舞台として登場するが、原作小説の描写とは異なるビジュアルになっている。田口監督は映像として落としこむ際、原作者と相談しながら“少し不思議”な方向にすることで落ち着き、モミジと鏡面をモチーフにして3DCGで制作することになった。自分と向き合えていない主人公とヒロインが自身を見つめ直すきっかけとして鏡や水に映る鏡面を作中に多く登場させ、画面の密度をあげながら映像のなかで意味をもたせていった狙いが語られた。

『ぼくらのよあけ』には水の惑星「虹の根」が登場し、イラストレーターのみっちぇ氏がデザインを手がけている。黒川監督は見たことがない風景をビジュアルにしようとすると、「自分ではこれまで見てきたもののサンプリングになってしまう」と、アニメ畑ではないみっちぇ氏にデザインを依頼した理由を語る。モチーフの参考として、貝殻の断面図を提示するなどしたそうだ。

『雨を告げる漂流団地』と『ぼくらのよあけ』には、団地が舞台という共通点がある。同時期公開のアニメ映画での“団地かぶり”の偶然に、石田監督と黒川監督はお互い「まさか」という思いだったという。「「どひゃー」とびっくりした」(石田監督)、「寝耳に水」(黒川監督)と当時の思いを率直に述べながら、石田監督は、地球に隕石が落ちてくるディザスタームービー『アルマゲドン』と『ディープインパクト』が1998年の同時期に公開されて当時区別がつかなかったことを類似例として挙げながら、「同じ団地の住人として2作とも楽しんでもらえたら」と、にこやかに微笑んでいた。

約1時間半のトークでは、3人の監督が考える思春期の子どもの描き方、作中で親をどんな存在として描くかといったテーマも語られた。観客からの質疑応答の時間ももうけられ、監督それぞれの答え方から思考の違いが浮き彫りになる興味深い一幕もあった。

第35回東京国際映画祭は、11月2日まで開催。イベントの模様は、後日YouTubeの公式チャンネルで配信される。
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