2022.10.26 [イベントレポート]
トランスジェンダーの女性たちが友人の遺志を叶える イタリア映画『ファビュラスな人たち』誕生秘話
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ロベルタ・トッレ監督

第35回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されたイタリア映画『ファビュラスな人たち』が10月26日、東京・丸の内TOEIで上映され、ロベルタ・トッレ監督が観客からの質問に答えた。

2002年に東京国際映画祭に出品された『アンジェラ』などで知れるトッレ監督の最新作となる本作は、5人のトランスジェンダーの女性たちが主人公。彼女たちの友人アントニアは、大好きだった緑のドレスを着て埋葬されたいと希望したにもかかわらず、家族の意向で男性の服装のまま埋葬されてしまう。そこで30年前に亡くなった友人の遺志をかなえ、彼女のアイデンティティーを取り戻そうとヴィラに集まった彼女たちが、超自然的な方法を試みる……という物語をコミカルかつファンタジックに描き出している。

映画上映後、ステージに登壇したトッレ監督は「こちらに来られてとてもしあわせです。この映画を皆さんに観ていただくということは、わたしにとってとても大切なことなのです。今日はぜひいろいろと質問してください」とあいさつ。

本作の主人公は、イタリアのLGBT運動の活動家としても知られるポルポラ・マルカシャーノ。この作品は、トッレ監督がポルポラの本を読んだことがきっかけになったという。

「ポルポラはたくさんの本を書いてきましたが、そこには70年代の彼女たちの運動、トランスジェンダーの運動などが書かれており、それを映画にしたいというところからこの映画を作ることにしました」と語るトッレ監督。「イタリアにはトランスジェンダーの方たちについて書かれた本というのはほとんどなく、彼女が書いた本が唯一のものだった。そしてキャストを選ぶ時にはポルポラさんにも相談していたんですが、彼女が70年代を一緒に過ごした7人のすばらしい仲間たちを紹介してくれることとなったんです」とキャスティングの経緯を説明。

さらに「そこからいくらかのセッションを繰り返したんですが、そこでコロナと重なってしまったので、Zoomなどを使って7人の仲間たちと連絡を取りあいました。そうやって彼女たちと一緒に物語の人物像を作りあげたわけですが、それは本人たちの性格に基づいて作られていったわけです」と付け加えた。

この作品の中では、物語的な要素と、登場人物たちがインタビュー形式で、自身の過去を語るドキュメンタリー的な要素をミックスさせて描き出している。その意図について「このドキュメンタリーとフィクションの融合というところは最初から考えていました」と明かした。

「フィクションの部分については、非常にシンプルなものではありますが、脚本を用意していました。ただ単純にドキュメンタリーとフィクションというものを簡単に分けられるものだとは思っていなくて。映画というものは複数の言語を融合することができるもの。自由な形で表現することができるものだと考えていたので、こういう形で表現することとなりました」

さらに「ですから脚本があって。そこにインタビューという形で、彼女たちの話を聞いて、それを物語に付け加えていくという形をとったわけですが、それから編集に6カ月かけました。編集をしながら、すべてをつなげる赤い糸というものを探していたわけですが、それが見つけられたところで映画が完成したということになります」と付け加えた。

「わたしは以前からトランスジェンダーの女性に興味を持っていましたが、この映画を撮ろうと思ったのはやはりポルポラの本を読んだことが大きい」とあらためて語ったトッレ監督。「彼女が描いてきたことはひとつの物語になっているということもありますし、そしてある種、歴史家のような視点もあった。それと同時に人間的な側面を描いていることに感動して、映画を撮ろうと思ったわけです。彼女の本の中はある意味で、イタリアの本流から外れたところで生きてきた人たちの歴史を描いているというところもあったと思います」と本作の背景にあるものを明かした。

第35回東京国際映画祭は11月2日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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