2022.10.27 [イベントレポート]
「起きている戦争というものを経験してみて、いかに影響を受けたかということを見せたかった」10/25(火) Q&A:コンペティション『テルアビブ・ベイルート』

テルアビブ・ベイルート

©2022 TIFF ミハル・ボガニム監督(左)、タナシス・カラタノス プロデューサー(右)

 
10/25(火) コンペティション『テルアビブ・ベイルート』上映後、ミハル・ボガニム監督、タナシス・カラタノス プロデューサーをお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会:市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):監督のミハル・ボガニムさん、そしてプロデューサーのタナシス・カラタノスさんです。通訳は松下由美さんにお願いいたします。
 
ミハル・ボガニム監督(以下、監督):(日本語で)コンバンハミナサン。
とてもうれしいです。日本は大好きです。ありがとう。
 
タナシス・カラタノス プロデューサー(以下、カラタノス プロデューサー):みなさん、映画をご覧になってくださってありがとうございます。ここでこうしてみなさんと映画を観られることが光栄であるとともに、この作品をコンペティションに選んでくださってお礼を申し上げます。この作品は、パンデミック中に撮影が行われました。そして今ここで、東京で映画を観て非常に感慨深いと同時に、今ロシア、ウクライナで起きているナンセンスなことが、残念であると同時に人間の性といったものも考えさせられます。
 
市山PD:カラタノスさんはベルリンをベースに活動しているプロデューサーなんですが、東京国際映画祭でグランプリを取ったカザフスタンの映画の『トルパン』(08)や、東京フィルメックスで上映した『ハンター』(10)というイランの作品、河瀨直美監督の『あん』(15)のドイツ版のプロデューサーであったり、非常に色々なヨーロッパ以外の国との作品を手掛けていらっしゃるプロデューサーです。
まずは監督に質問です。この作品は今ご覧になっていただいたように、レバノン戦争が背景になっております。これはなかなか日本では知られていないかもしれませんが、なぜこのレバノン戦争を映画の背景に使われたのかというところを伺いたいと思います。

 
監督:私がイスラエル人だからというのは大きいですね。このレバノンの戦争というものを自分も生きている中で経験して、起きているということを知っていて、やはり様々なその世代で、いかに国境の近くに住んでいる人たちが影響を受けたかということを見せたかった、そして国境のあちらとこちらで一つの大地だったのに線が引かれている。日本は韓国が近いということで、韓国を考えていただければ少し身近に感じるところがあるかもしれません。そして、イスラエルとレバノンはいまだに国交がないんです。
 
市山PD:カラタノスさんに質問です。この作品はフランス、ドイツ、キプロスという枠組みの共同制作になっています。特にキプロスが共同制作に入るのは珍しいと思うのですが、この合作の枠組というのはどのような経緯があったのでしょうか。
 
カラタノス プロデューサー:キプロスだけでなく、一部はイスラエルでも撮影しているのですが、イスラエルからはやはり非常に微妙なテーマということで十分な資金援助が受けられなかったということです。そして、キプロスは地形的にも非常にイスラエル、レバノンに似ているということで撮りやすかったということがあります。あと、助成・支援がキプロスでは優遇があるということで、システムが整っているということが大きいです。
 
監督:私がイスラエル人であるためレバノンに入って撮ることが出来ないし、レバノンの俳優とイスラエルの俳優の両方に出演してもらいたいとなると、どこか中立な場所、ということで、地理的にも近いということで、キプロスを選びました。
 
Q:監督にお伺いしたいのですが、イスラエル側のお母さんがフランス人という設定ですが、何か狙いはあったのでしょうか。
 
監督:外国人の視点があるということは興味深いのではないかと思いました。また彼女は外国人であるが故に息子が軍隊に入ることに反対したという部分で、多くの人がイスラエルに移住をしていますが、彼女も外国から移住をしたという設定ですね。そして、レバノン人とフランス語で共通言語があって会話ができるというストーリー的な理由もあります。
 
Q:男性と女性の関係で、男性が強く女性を非難する態度がとても気になりました。女性は女性で、もっと男性が感じているのとは別の、状況に関して別の捉え方をしているような、そういったものを感じました。女性たちの受け取り方、女性たちに込めた思いを聞かせていただきたいと思います。
 
監督:イスラエルの兵役、やはり、男性の方がより前線にいるという実態があります。女性も兵役がありますが、やはり男性ほど実際の戦闘に関わることは少ないということ、それ故に、非常に反応というか態度が異なるということを見せたかった。加えて、この映画で母として息子を戦場に送るという、母の心情というものを表したいと思いました。そしてレバノン側、彼女は娘として、戦争があるが故に彼女と父親の関係は非常に影響を受けるということを、家族にとって影響があるということを見せたかったのです。
 
カラタノス プロデューサー:母親は兵士を育てたかったわけではないですよね。だけれども、イスラエルの組み込まれているシステムというか、なかなか兵役を拒否できない、そういった避けがたい現実を描いています。
 
Q:日本でも大変人気があるイスラエルのジャズミュージシャンのアヴィシャイ・コーエンの音楽をお使いになっただけではなく、俳優としても起用されたのはなぜですか。
 
監督:私はジャズマンとしての彼がとても好きというのが理由ですね。実は、ちょうどこの時期は来日していて東京にいるはずだったのですが、残念ながら延期になったので、いらっしゃらないのですが、すばらしいミュージシャンであって、ありがちな映画音楽とは違うものを提供してほしかったということです。彼の音楽に加えて映画のために作曲してもらったものもあります。サントラには彼の映画の曲が入っています。ちょっと歌があるものでも、ジャズテイストを加えてもらえました。それから、彼が映画に出演したいということなので、ちょっとだけ出てもらいました(笑)。
 
Q:製作する上で、何らかの抵抗があったり、実現するのに問題や課題はありましたか。
 
監督:そうですね。テーマ故にイスラエルからの金銭的な支援を受けられなかったので、ですのでヨーロッパの資金とキプロスの資金に頼りました。
 
カラタノス プロデューサー:キプロスでの撮影という選択になったわけですが、結果的にOKだったと思います。イスラエルからの助成がなくても最終的に映画は完成出来ました。
技術的な部分、まさに戦闘シーンは武器を用意したりとか、キプロスに実際に軍がないというか全部作らなければいけないというのが一番難しい点でした。最初、監督はレバノンでという考えがありましたが、イスラエルの俳優をレバノンに連れて行って撮影ができなかったので、レバノンの情勢を考えるとキプロスで撮れたというのは良かったのではないかと思います。実際のところ、製作の資金の大部分はフランス、そしてドイツからです。監督がフランスに住んでいるということも大きいですが。このような構成になっています。

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