2022.11.02 [インタビュー]
「人生は旅であり、老いて死んだ後は“精神”に戻っていく――。」ーー第35回東京国際映画祭アジアの未来部門出品作品『クローブとカーネーション』ベキル・ビュルビュル監督インタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー:
クローブとカーネーション
ベキル・ビュルビュル(監督/脚本/編集)
 
公式インタビュー

©2022 TIFF

 
トルコ南部のアナトリア地方。隣国から流れてきた年老いた難民ムサは、孫娘のハリメを連れて、妻の遺体が入った棺を引いて旅をしている。彼は妻との約束を果たして、故国にその遺体を埋葬できるのか? 
冬枯れの田舎の風景と、時折挿入される幻想的なショットに目が奪われる一作。監督のベキル・ビュルビュル(1978~)は、難民が戦火の国に戻ろうとして警察に捕まった新聞記事を読んでこの物語を思い立ったが、シリア、アフガニスタン、ロシア、ウクライナの難民が流入している現在の混迷深い状況を鑑みて、このふたりをどこか特定の国の民に設定することを避けたという。難民の物語でありながら、イスラム神秘主義の影響を受けた内面の旅を描いていることを、監督は強調していた。
 
――主人公の老人ムサと孫娘のハリメは難民であり、トルコ語がほとんど話せません。そのため表情や行動、ふたりに関わる周囲の人々の言動から、彼らの境遇が伝わるように演出されていましたね。
 
ベキル・ビュルビュル監督(以下、ビュルビュル監督):このふたりは国境沿いの国からトルコに流入した難民であり、一般のトルコ人とは言語によるコミュニケーションができません。本作では彼ら難民を描く一方で、物語の舞台となるアナトリア地方に住む貧しい人々の生活も描いて、住民が日々の暮らしをおくるなか、難民に世話を焼いて関わりを持つ姿を描きました。
 
――ムサとハリメの間にもあまり会話はありませんね。世代差のあるふたりにはどんな感情の違いがあるのでしょう?
 
ビュルビュル監督:老いたムサは故国に戻り、妻の亡骸を懐かしの土地に埋めたいと念願しますが、12歳のハリメは幼い頃、内戦で母親を亡くした記憶があり戻りたくありません。母親の死はハリメが描く絵に示されており、ドライブインで彼女が自分の髪を編む場面にも滲ませています。通りすがりの子がお母さんに髪を編んでもらっている姿を見て、ハリメも亡き母に自分がそうしてもらったのを思い出し髪を編むんです。
 
――洞窟でムサが妻の遺体を棺から出して、ハリメを入れて暖をとらせます。生と死が結びつく象徴的な場面です。
 
ビュルビュル監督:難民という設定に即していうなら、あの場面は生き残ることのメタファーになっています。
 
――棺が木の上に乗り、その後ろを電車が走っている幻想的な場面があります。こうした場面はロードムービー的な現実の物語とは異なる、精神の旅を示しているのでしょうか?
 
ビュルビュル監督:私はこれを難民に特化した話ではなく、私自身の心の旅として書き始めました。人生は旅であり、まず精神があって、母の胎内から生まれ育っていく。そして老いて死んだ後は、また精神に戻っていく。これがスーフィズムというイスラム神秘主義の核心にある考え方であり、この思想に触発されて私は現実レベルから解き放たれた夢の世界も描きました。人生は夢であり、死ぬことによって覚醒する。旅は夢と現実の間を往来するんです。
公式インタビュー
 
――夜、トラックに乗っていると、ヘッドライトに照らされて、新たに国境を越えてきた難民たちの姿が浮かび上がります。ラジオから陽気な音楽が流れ、「生きる意味などない」と語るディスクジョッキーの話が痛烈な皮肉を醸しています。
 
ビュルビュル監督:難民たちは故国を逃れてトルコにやって来ますが、ムサは妻の遺体を伴って、自らが逃れてきた故国へ向かっています。ここでは相反する両者の存在を詩的に際立たせました。
 
――タイトルにはどんな意味がありますか?
 
ビュルビュル監督:クローブもカーネーションも同じ匂いがする植物で、映画でさまざまな意味を持ちます。ムサは妻の遺体にクローブの蕾を振りかけて臭い消しのように使い、ハリメはその墓の上にカーネーションを挿して、哀悼の意を表します。
英語題をどう付けようかと悩んでいた時、本作のワールドセールスを担当する Alpha Violet の船戸慶子さんがこの題を見つけてくれて、とても気に入りました。ちなみにトルコ語の題は「ひとつまみのカーネーション」です。
 
――このあと、ふたりはそれぞれどうなるんだろうと思わせるなか、祝祭的な幻想の場面が登場します。
 
ビュルビュル監督:先ほども言いましたが、この映画はスーフィズムの影響を受けており、この思想のなかでは、死を通じて故人や配偶者、友人と出会うという発想があるんですね。ムサがいつも妻のことを考えているのは明白で、死してまた巡り会うという意味で、ああした場面を作りました。
 
――実はこの場面は、映画の冒頭とリンクしています。
 
ビュルビュル監督:私は詩が好きで、詩は繰り返し読むうちに、最初に読んだ時に感じたこととは別の事柄が感じられ、色々な気付きを得られるものです。それと同じように、映画もまた改めて見てくれた時に、別の気付きや味わいが得られるものにしたくて、こんな構成にしたんです。
 
 

取材/構成:赤塚成人(四月社/ TIFF Times 編集)

 
 
第35回東京国際映画祭 アジアの未来部門
クローブとカーネーション
公式インタビュー

©FilmCode

監督:ベキル・ビュルビュル
キャスト:シャム・ゼイダン、デミル・パルスジャン

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