2022.10.31 [イベントレポート]
「監督は多面的な人たちを認め、描こうとしています」10/30(日) Q&A・コンペティション『ザ・ビースト』

ザ・ビースト

©2022 TIFF

 
10/30(日) コンペティション部門『ザ・ビースト』上映後、ルイス・サエラさん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
司会・安田祐子(以下:安田):今日は主人公夫婦のお隣に住んでいるお兄さんが来てくださいました。シャン役を演じられました、ルイス・サエラさんです。ルイスさん、怖かったです。
 
ルイス・サエラ(以下サエラ):ありがとうございます。
 
安田:ルイスさんはこの映画の舞台になっているガリシア州出身でいらっしゃるということで、撮影に意欲的に取り組まれたとお聞きしています。監督のロドリゴ・ソロゴイェンさんとご一緒されるのは3作目だそうですが、今回のご出演にあたり、どうしてこの作品に惹かれたのか教えていただきたいです。
 
サエラ:監督とご一緒するのは3作目なのですが、3作目ともなるといい意味で仕事をするのが楽になりました。誰かとお酒を飲む時、初めてもそれはそれで良いのですが、2回目はもっと楽しくなり、3回目にもなると最高という状態になるのと同じです。互いに人柄や仕事のスタイルなどの理解が深まって仲間であることを強く感じ、日本でいう調和というような関係性が役者と監督との間で生まれました。役者になりたい方は、ソロゴイェン監督のような素晴らしい監督と働くことの出来る機会を是非手に入れて欲しいと思います。
 
安田:今回ルイスさんが演じたシャンは、主人公に対して非常に残酷なことをする役でした。ですが、彼なりの正義や理由を持って生きているのではないかとも思います。ルイスさんはこの役をどのように解釈して演じられましたか?
 
サエラ:今回来日してから7日が経っているのですが、色々な人と話をする中で、日本は自分の出身地であり映画で描かれているガリシア地方と似ているところがあると思いました。食事など本当に多くのものが似ています。東京というのは非常に大都市で、人口が1500万人と多いです。また、スペインは首都のマドリードでも人口が800万人という都市です。ただ、この映画を通して皆さんに知ってほしいのは、スペインにはこんな村もあるよということです。悪いように受け取って欲しくないのですが、原始的な人々がいる村がまだたくさん残されています。日本にそのような場所があるのかは自分には分からないですが、スペインには残されてしまった田舎があり、今作ではそのような村を描いています。中には大都会に行って故郷とのギャップを乗り越えていく人もいますが、残されてしまった人もいます。今回演じたシャンという役は、悪い人ではないです。結果的には罪を犯すので悪い人なのかもしれないですが、自分なりの正義や理屈のために戦っているのです。ソロゴイェン監督は、そういった人たちを何らかの形で描こうとしている。つまり、悪いけれども正義がある、そういった多面的な人たちを認め、描いていきたいというのが彼の目標なのです。
 
Q:撮影中苦労した場面がありましたらお聞かせください。
 
サエラ:ソロゴイェン監督はリハーサルを何度も何度も重ねる人なので、実際に撮影をする時には既に非常に状況が整っています。長いシーンでも2テイクしか撮影していません。ソロゴイェン監督の撮影チームのカメラマンさん、美術さん、衣装さんといった方々はいつも同じ顔ぶれです。ですので、整備された車のようにスムーズに動くのです。また、対話のシーンよりもどちらかというとアクションシーンの方が色々と問題が起きると思うかもしれませんが、重要なシーンも専門家を交えて入念にリハーサルをした上でゆっくり撮ったので、2テイクしか撮影していません。
 
安田:ルイスさんはテレビでも映画でもご活躍される中でいろいろな監督さんとお仕事されていると思うのですが、ソロゴイェン監督のようにリハーサルをたくさん行う方もいれば、ほとんどされない方もいらっしゃると思います。どちらがやりやすいなどはありますか?
 
サエラ:どちらが簡単とか楽だとか、そういったことではないと思っています。役者の仕事というのは、順応していくことだと思います。例えば監督がこうしてほしい、ああしてほしいと言った時に、自分から何かを生み出すことや存在している状況を生かすこと、またそれを助長することや状況そのものを花開かせていくことが私の責務です。ソロゴイェン監督の利点というのは、彼が監督であり、脚本家でもあるというところです。自分で脚本を書く監督は私が知っている限りあまり存在しません。そして、一人の人間が監督と脚本の両方を手掛けていることの利点は、頭の中に既に映画が描かれているところだと思います。なので、そういった監督の考えに自分をしっかり当てはめていかなければなりません。自分で脚本を書いていない監督さんは、逆に役者自身を羽ばたかせて好きなようにやらせてくれます。役者が意向を伝えることや提案をすることができるわけです。先程の車の例を使いますと日本の車は工場から出たままそのまま動きますよね。それをどう動かしていくかというのが自分の仕事です。もう一方の脚本を書いていない監督に関しては、自分がいかに羽ばたいて出していくかというところだと思います。
 
Q:タイトルの「ザ・ビースト」の意味について教えていただきたいです。
 
サエラ:『ザ・ビースト』というタイトルをスペイン語で解釈すると、暴力的で野蛮な人という解釈ができます。またスペインの公用語の一つであるガリシア語の解釈では馬や牛などの家畜を意味しています。ですので、両方の意味を持たせての言葉遊びをしているというところでしょうか。
 
安田:私はこの作品のポスターがすごく好きです。ここまでルイスさんに色々お話を伺いましたが、また日本で上映されるご出演作品、そして、東京国際映画祭で上映される作品をお待ちしております。
 
サエラ:本当にありがとうございます。心から感謝しております。初めて今回日本に、そして東京に来ましたが、本当に素晴らしい国だと思いますし、何よりすごい!という驚きが多かったです。そして、おそらく最近自分がした中で一番素敵な経験が出来たと思うので、皆様には心から感謝を申し上げたいと思います。

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