2022.11.01 [イベントレポート]
是枝監督×松岡茉優、映画業界で働く女性たちの思いを語り合う
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是枝裕和監督(左)と松岡茉優

第35回東京国際映画祭の公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」が10月31日、東京・TOHOシネマズ日比谷で行われ、是枝裕和監督、女優の松岡茉優が登壇した。この日のファシリテーターは映画評論家の立田敦子氏が務めた。

日本映画界における女性の役割や課題、未来について語り合うという趣旨で行われた本イベントは、2019年に次いで2度目の開催。この日のゲストは、18年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した是枝監督、同作および是枝監督が手がけたNetflixの配信ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」にも出演する松岡が登壇。監督と女優という異なる立場から、映画業界で働く女性たちの思いを語り合う機会となった。

トークテーマはまず、是枝監督が現地のスタッフ、俳優と一緒に映画を作ったフランス、韓国の労働環境についてというテーマからスタート。「これは女性に限らずですが、ふたつの国は働き方改革が非常に進んでいる」と前置きし、「フランスは元々(1日)8時間労働が原則なので、晩ご飯前には家に帰ることができる。夜に撮影があれば、翌日は昼から開始というように管理されています。土日は基本的にはなし。土曜に撮影する場合は(平日のギャラの)200%、日曜は300%となり、基本的には土日は確実に休みにするということ。一方の韓国では、1週間で52時間という上限が決まっている。男女問わずですが、現場で働いている方の環境は整えられている」と説明する。

是枝監督が手がけたフランス映画『真実』の撮影現場では、撮影のチーフ助手がシングルマザーで、3人の子どもがいたという。彼女は撮影が終わってから、保育園に子どもを迎えに行き、そして一緒に晩ご飯を食べることが可能だったと語る。

その話を聞いた松岡が「映画によっては、2週間とか10日とかで1本撮るということもあるじゃないですか。それを経験した身としては、実はそれほど悪いことばかりでもないという思いもあって。もちろん寝られた方がいいし、家族と過ごせる方がいいんですけど、その期間は超集中できたということもあって。これはなくなっていくべきだと思いますか?」と素直な疑問をぶつける是枝。監督は「これは難しいよね」と切り出しつつも、「ある種、寝食をともにして。一体感でお祭りを執り行うような感じ。そのノリでやっていくことで、仕事以上のつながりができて、それが財産になるという部分もあるけど、それによって犠牲になることもあるから改善すべきだと思う。韓国では休みをとりながら撮影をしたけど、それで一体感がなくなったかといえば、そんなこともなかった」と言い切る。

さらに「僕らは、次世代の人たちが働く場所について、彼らの家族から「そんなところで働くのはやめなよ」と言われないような環境を整えないといけない。自分もそういう責任のある年齢になったんだよね」と決意を語る是枝監督に対して、松岡も「わたしたち若い世代がそういうことを言うと生意気とか言われます。でもわたしももう27歳ですから。12歳の子が言うならビックリされるかもしれないけど、わたしたちがそういう発言をしてもビックリされない世界になってほしい。もちろん(そうした環境は)ゆっくり変わってきているんですが、言わない方がベターということはありますよね」と語った。

そんな松岡にとって、是枝監督の現場は「怒鳴る人がいなくて、大変穏やかな気持ちで撮影ができた」という。そんな現場の雰囲気になった理由として、「僕が怒鳴り声が嫌いだからということもある」と明かした是枝監督。「『ワンダフルライフ』の撮影現場では、一般の方や子どもがいたから。現場でスタッフが大きな声で怒鳴っていたら、自分が怒られるような感覚になってしまうということで、怒鳴らないように徹底したのが最初。それが明らかに変わってきたのが、2008年の『歩いても 歩いても』の時。どうやら(監督が)大きな声が嫌いらしいよ、ということがスタッフに浸透して。大声を出さないように、指示するときはワイヤレスマイクを使ってやるようにやってくれた。そうすると子どもが怒られないから、自由にやってくれるようになって。演出に大きく影響するなと思いましたね」

また松岡は、以前は「女優」という言葉に抵抗があったと告白する。「女優というのは清楚だったり清潔感があったり。もしくは色っぽい人。あこがれの人というイメージがあって。だから自分は女優に当てはまらないなと思っていた」と語る松岡は、「でも『万引き家族』で樹木希林さんと安藤サクラさんと一緒に芝居をして。女の人として、女優になりたいと思った。彼女たちは色っぽくて、うるわしいイメージでなく、肉体的な感じがしたから」と述懐。その言葉に「僕は松岡さんを、希林さんとサクラさんに連なる系譜の人だと思っていて。だから2人に会わせたかったということはあります。20代のうちに会わせておくと財産になって。演じることが確変する気がしたので参加してもらった」という是枝監督に、松岡も「財産になりました」としみじみ。

その後は日本でもようやく火が付き始めた#MeTooムーブメントについての話題に。「もちろん全員がそうということではないんですが、本来、みんなを助けるために行われているはずの運動なのに、どうして対立が生まれてしまうんですかね。(男女が)ケンカをするのではなく、話し合いをするべきだと思うんですが」と疑問をぶつける松岡に、是枝監督も「声をあげることはもっともっと必要だし、声をあげた人が孤立しないようなサポート体制はまだまだない。不利益にならないということが大切」と明言。そしてその後も、「舞妓さんちのまかないさん」などで、インティマシーコーディネーターとやりとりした時の話。カンヌ、ベネチアなどで女性監督が躍進していることがニュースとなる現状、是枝監督たちが推し進めている日本版CNCの話、そして仕事と家庭の両立ができない日本の女性スタッフの話など、その話題は多岐にわたった。

そんなトークを振り返り、「人にできることは話し合いだと思うから。ケンカでなく、話し合いができる映画界であってほしい」と松岡が語れば、是枝監督も「今日は昼に橋本愛さんと話をしてきたんですが、今の違和感も含めて、話せることになったのはすばらしいこと。僕くらいの世代の女優さんは、そういうことを言うこともはばかられるという状況が続いてきたから、それだけでも勇気がありますよね」と締めくくっていた。
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