2022.10.30 [インタビュー]
閉鎖社会で起こる正義とは何かを問う、パワー溢れる問題作ーー第35回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『ザ・ビースト』 ルイス・サエラさん(俳優)公式インタビュー

東京国際映画祭公式インタビュー:
ザ・ビースト
ルイス・サエラ(俳優)
公式インタビュー

©2022 TIFF

 
スペイン、ガリシア地方の静かな村に移住してきたフランス人夫婦は、村人と諍いを起こす。反発はエスカレートし、取り返しのつかない事態に陥っていく――。『おもかげ』(19)で日本でも注目された異才、ロドリゴ・ソロゴイェンがEU時代に問う正義についての物語。実話の映画化で、出演者もフランスから『悪なき殺人』(19/TIFF最優秀女優賞・観客賞)のドゥニ・メノーシェ、『私は確信する』(18)のマリーナ・フォイスを迎えたほか、スペインからはルイス・サエラ。ともに熱演を繰り広げる。
 
――ロドリゴ・ソロゴイェン監督が来日できなくなってしまったので、あなたに伺います。この作品ができた経緯はどれくらいご存じなのですか?
 
ルイス・サエラ(以下、サエラ):この作品は実話に基づいています。ガリシアのある村で起きたオランダ人夫婦と隣人家族の諍いで、オランダ人の夫が殺された事件です。それをフィクションにして、設定をフランス人夫婦に変えたということです。
 
――描かれている地域で、今の話のように、EU諸国から移民される方も多いのですか? 昔から住んでいる人との軋轢というのはありますけれど。
 
サエラ:いや、この過疎の地域に来る移民というのは、滅多にいません。そのオランダ人の話が本当に異例中の異例です。ガリシアに人が来ることは滅多になく、逆に外に出ていく。その結果、ガリシアの人たちは世界中に散らばっています。
スペイン語圏では、スペイン人のことをガリシア人と言うこともあります。
 
――監督は、実話のどの部分に惹かれたと思いますか?
 
サエラ:監督と仕事をするのは3作目ですが、自分が知っている限り、このアイデアは7年前から持っていたようです。たぶん監督が興味を持ったのは「土地は誰のものなのか」というテーマの部分ですね。もともと住んでいる人のものか、後から来た人のものなのか。
今やグローバリゼーションが与える影響があるし、過疎化というテーマもあります。この映画では風力発電の風車が象徴する大企業が入ってくることで、村の風景がどう変わっていくかということです。
公式インタビュー
 
――昔からその土地に暮らす村人を演じていますが、演じるにあたって監督の要望はありましたか?
 
サエラ:特には言われていません。このキャラクターは村を出たことがなく、風力発電のおかげでやっとそこから出るチャンスが訪れるという設定です。監督は脚本も書いていますが、素晴らしい仕上がりでした。事前のリハーサルをしっかりする人ですし、私もガリシア人がどういうものかを理解していたので、リハーサルやテーブルリーディングはやりましたが、特別な指示というのはなかったです。
 
――キャラクターを演じてみて、どのような思いを感じましたか?
 
サエラ:自分が演じたキャラクターは、風力発電の風車こそが自分の未来であり、最後のチャンスだと考えています。外から来たフランス人夫婦は、近代化を阻止する存在なのですね。村人たちにとっては、あんな小さなトマトを育てる意味が分からないし、この場所でそれを続ける意味が分からない。大企業に土地を売らないと全てを失ってしまう。というわけで、フランス人夫婦を天敵だと考えて演じました。
 
――この映画は正義についての映画だと監督のコメントがありますが、演じてどのように感じましたか?
 
サエラ:まさに正義とは何なのかを問う作品だと思うのですが、登場人物が非常に多面的で、それが効果的だと思います。反発する両方を理解できるから、何が正しく何が正義かという答えを出すのが難しいと思いました。やはり最終的には観客が決めなければいけないのです。正義は誰が決めるのか、答えを出すことができない難しいものだと訴えてきます。
 
――いろいろな役を演じてこられたと思いますが、この監督に特別な思いはありますか?
 
サエラ:国際的にも知名度が高い監督ですし、演じるのはすごく光栄なことです。同時に、監督は自分で脚本を書くので、作品に対してとても細かさがあります。
監督はゴヤ賞を獲っています。私の出演作の中で、監督がゴヤ賞を獲ったのは3人目か4人目だと思いますが、ソロゴイェン監督の実力はスペイン映画界でも群を抜いています。自分の制作会社も作り活動している。役者仲間からも「どうすれば彼と仕事ができるの?」とよく尋ねられます。
 
――スペイン映画界でも特別な存在なのですね。
 
サエラ:昔は誰もがペドロ・アルモドバル監督と仕事をしたがったけれど、今は変わってきています。今、ロドリゴ・ソロゴイェンが新しい世代の旗手です。テレビ作品も作っていて上手く成功しているし、フランスと共同制作で映画を作るなど将来性が高い存在で、天賦の才能の持ち主なのです。
 
――ところで、いかにして俳優になられたのですか。
 
サエラ:1982年、16歳のときに芝居の劇場に連れていかれ、はまりました。本当に簡単なきっかけなのです。
 
――ロドリゴ・ソロゴイェンとの出会いを教えてください。
 
サエラ:監督がテレビで私の作品を見たようです。彼の2作目の小さい役からはじめて、信頼を得ました。ソロゴイェン・チルドレンなのだと自任しています。今後もまた、監督の考案中のプロジェクトに参加するかもしれません。監督は秘密主義なので、執筆中は詳細は不明です。
 
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

 
 
第35回東京国際映画祭 コンペティション部門
ザ・ビースト
公式インタビュー

© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E, Le pacte S.A.S.

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
キャスト:ドゥニ・メノーシェ、マリーナ・フォイス、ルイス・サエラ

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