2022.10.30 [イベントレポート]
川村元気監督が『百花』で目撃した、菅田将暉の“離れ業”
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Q&Aに臨んだ川村元気監督と共同脚本の平瀬謙太朗

第70回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀監督賞に輝いた『百花』が10月30日、第35回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門で上映され、メガホンをとった川村元気監督と脚本を共同で執筆した平瀬謙太朗がQ&Aセッションに登壇。観客からの質問に答える中で、川村監督が主演の菅田将暉が成し遂げた“離れ業”について語った。

本作は、『告白』『悪人』『モテキ』『君の名は。』など多くの話題作を手がけてきた川村氏の長編監督デビュー作。記憶を失っていく母と向き合っていく息子・泉(菅田)と、すべてを忘れていくなかで様々な時代の記憶を交錯させていく母・百合子(原田美枝子)の親子の愛を描き出す。

上映後には、観客から拍手が沸き起こったこの日。「記憶や思い出を描く上で工夫したこと、どのような思いを込めたか」という問いに対し、川村監督は「ずっと記憶について考えてきた」と切り出す。「AIの研究者に「なぜAIを研究しているんですか?」と聞くと、「僕たちは人間を作りたい」というんです。「人間を作るというのは、どういうことですか?」と聞くと、「記憶をひたすら入れる。将棋のAIを作るならば、将棋の記憶をひたすら入れていく」と。それを聞いていると、人間は身体ではなく記憶でできているものなのかなと思うようになった」と振り返る。

続けて川村監督は「ただ、そこで「記憶を集積してくことで、才能は生まれるのか?」という疑問が湧いた。僕にはそう思えなかった」と持論を展開。「もし小説家の優れたAIを作るとしたら、ありとあらゆる作家の記憶を入れたあとに、“愛”、“ラブ”という言葉を抜くだろうなと。失った“ラブ”を表現しようとすることで、AIはオリジナリティや作家性を生み出すんだと思った。失ってしまったものや、傷ついたものが、その人の個性になるのではないかと気づいた。認知症になって“忘れていく”ということが悲劇にならず、忘れていくこと自体が人間らしさなんだというところに帰着したいなと思いながら、作っていました」と熱っぽく本作に込めた思いを語った。

また菅田演じる泉が“嘔吐するシーン”について、質問が上がる場面も。川村監督は「菅田くんがそこで離れ業をやった」とにっこり。「泉が部屋に入ってきて、メモを落として、それらを拾う。拾っているうちに涙があふれて、そのあとに吐いてしまう」という展開をワンカットで撮り上げるシーンとなるが、「ランダムに散らばっているものを拾う順番は、すべて決まっていた」という。

「最初、吐くものを口の中に入れながら芝居をしてもらった。でも人間の身体の機能として、口の中に水を入れたまま涙を流すことはできないということが発覚した。20テイクくらいやったけれど、やっぱりそれはできない」と撮影しながら気づいたことで、口の中に水を含まずに取り組むことになったという。「するとボロボロ泣く。さすが俳優だなと思ったけれど、「もう一回、水を口に入れてやってみる?」と言ってやってみたら、最後の最後に、口の中に水を入れたままできた」と菅田の快挙に声を弾ませる。

川村監督は「“泣くこと”と“吐くこと”という矛盾したことが、同時に起きるという現象をやってみたかった。俳優がやってもフィジカル的に無理だという、そういったことが起きる状況を撮りたかった」と意図を明かし、「それに応えた菅田将暉には本当に感謝しています」と最敬礼。そのシーンは「2、3時間くらいやっていた」そうで、平瀬も「過酷な日でしたね」と苦笑いを見せていたが、離れ業を成し遂げたあとに菅田は30分くらい動けなかったという。イメージやロジックで固めた世界を、壊してくれるような俳優を望んでいたという川村監督は、「ロジックとエモーショナルの戦いが起きると、この作品の面白さになると思った。菅田くんとはいろいろと仕事をしているけれど、予想ができないんです。その予想のできなさがほしかった」と菅田を起用した決め手について、信頼感をにじませながら語っていた。

同映画祭は11月2日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。
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