2022.10.26 [イベントレポート]
「この映画はすべてを内包する海みたいなものだな、と思い観ていました」10/25(火) Q&A・アジアの未来『i ai』

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©2022 TIFF

 
10/25(火) アジアの未来部門『i ai』上映後、マヒトゥ・ザ・ピーポー監督富田健太郎さん(俳優)をお迎えし、Q&Aが行われました。
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石坂健治シニア・プログラマー(以下、石坂SD):それでは、ワールド・プレミア上映が終わった、今のお気持ちを一言お願いいたします。
 
マヒトゥ・ザ・ピーポー監督(以下、監督):本当に胸がいっぱいです。ずっと自分がイメージしてきたものを2時間の中に閉じ込めてきた一年、二年、三年だったのですが、ようやく羽ばたいていくような時間にたどり着けて本当に嬉しいなという気持ちです。ありがとうございます。
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富田健太郎さん(以下、富田):観ていただきありがとうございます。観ながら当時の全ての記憶とか土地のにおいとか人の顔、全部が浮かんできて胸に熱いものがずっと宿っていました。僕は後ろの席で観ていたんですけど、最後のセリフ、そして僕の目の前には観客の皆さんの背中があって、映画と現実の世界線がリンクしたというか、これからも僕たちは色んなことに対して悩みながらも生きていく、という色んな意味で感慨深い経験になりました。改めてマヒトゥくんにありがとうございます、という気持ちでいっぱいです。
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石坂SD:ロケ地はおそらく兵庫県だと思うのですが、海が印象的で監督の中であの舞台に対してどのような思いで撮影されたのですか?
 
監督:言葉に「海の向こう」というのがあるように、海って色んな世界に、自分たちがいるこの場所とその向こう側と呼ばれるような場所と繋がっていますよね。この場所から抜け出したいだとか、次に向かいたいと思うときには、いつも海を見続けておよそ33年間なんですけど、海がずっと近くにありながら遠くをイメージすることもあれば、揺蕩(たゆた)っている波の満ち引きというか、いっては帰ってくるというループを、じっと見たまま動けない自分がいたり。そういう外の世界に対する願望とそれを見続けている今っていうものが入れ替わり続ける海が大好きなんです。この映画に出てくる明石の海は本当にそういう海なんです。一番最初に森山未來さんが映画のオファーを受けてくれた時もこの海の話をしていました。生きているとか死んでいるとか、光と影みたいなものすべてを内包しているのが海だと思うし、この映画も海みたいなものだなと思いながら今日観ていました。
 
Q:ポスターの題字に生命力を感じたのですが、この題字を制作された際のエピソードはありますか?
 
監督:文字は元々の象形文字があって、川だったらこう川が流れたり、山だったり山の形があったり。そこで私という意味の「i」が、これは英語なので偶然かもしれないですけど、人間の形に見えたんです。頭があって、体があってっていう。人の形に見える文字が自分を表す一人称の言葉であるっていうことと、「愛」っていう「Love」という言葉を口にするのが、自分が今まで音楽をやってきた中で恥ずかしくて歌えなかったり、作れなかったんですけど、2回言ったらいいかな、と思って(笑)、『i ai』というタイトルになりました。そして、鈴木ヒラクさんというアーテイストの方に“i ai”という字を書いてもらうことになったのです。文字自体が生きるというもののイメージを外に発していくような、ただの記号としてタイトルが分かればいいというわけじゃなくて、そのもの自体が答えを発しているような絵を、(文字ではなくて)絵を描いて欲しいと、お伝えしました。『i ai』という文字が読めないということで映画業界の方からは評判が悪いんですけど(笑)、「まぁそこは読んでください」という気持ちで、タイトルは付けています。
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©2022「i ai」製作委員会

 
Q:あるシーンでは空に天使の輪のような雲があるように見えたりしたのですが、撮影時のエピソードはありますか?
 
監督:空の天気までこちらが演出することは出来ないのですが、撮影のスケジュールが決まっている中で、どんな天気や気候が待っているのか選べないものの、その時その時の天候に応援されてるなと思うことが沢山ありました。おっしゃられたシーンの空の様子もそうだし、登場人物が川にダイブするシーンが終わった後に虹が出ていた時も、何かに祝福されているような気持ちがずっとありました。これは人との出会いでもそうだと思うんですけど、自ら選べないことも沢山ある、頭で考えてもどうにもならないような出会いとか、それらがこの作品を作っていく中で街や海、空に祝福されて許してもらっているんだなと感じて記録しました。人物が雨の中で泣くシーンでは、その日だけ台風が来たり、撮影中に不思議な色んな縁を引き寄せたなと思います。まあ日頃の行いがいいんでしょうね(笑)。
 
Q:富田さんが演じた主人公“コウ”に対しての監督の思いと、それを受けた富田さんの感想や意見をお聞きしたいです。
 
監督:質問ありがとうございます。最後の独白がある意味、自分の分身のような血肉の通った言葉たちなので、簡単に言うと雑には扱うことのできない、それを託すのが主人公です。ただ演技が上手いだとか、人気があるだとか、そのようなことでは到底託せないです。終わった後もこの映画は色んなところに自分たちのことや観ている人たちのことを連れていってくれるような、その後の人生も一緒に紡いでいきたいようなイメージがあったので、一緒にいたいと思える、そういう理由から富田さんをオーディションで選びましたし、それが“コウ”という主人公のイメージでもあります。
 
富田:嬉しい言葉をありがとうございます。僕はずっと悩んでいました。1年前の自分が『i ai』に、マヒトゥ監督や色んな人に出会えたおかげで迷っていた自分を救ってもらった感覚がありました。それと同時にこれから生きる人生に対しての責任も生まれてきて、そういうものを色んな言葉だったり、“愛”ですかね。全ての方からの“愛”を受けて僕は“コウ”という役を演じることが出来ました。今も僕の中で映画の中なのか地続きなのかごちゃごちゃになっています。でもそういうような作品に俳優として出会えたことが幸せですし、今後も責任をもってこの愛を受けて、愛を返せるような人に僕はなっていきたいなと思います。

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