ミルチョ・マンチェフスキ監督(右)とプログラミング・ディレクターの市山尚三氏
第35回東京国際映画祭と国際交流基金による共同トークイベント「「交流ラウンジ」ミルチョ・マンチェフスキマスタークラス」が10月27日に開催され、コンペティション部門出品作『
カイマック』のミルチョ・マンチェフスキ監督が、自作とこれまでのキャリアについて語った。
初の長編劇映画『ビフォア・ザ・レイン』(94)がベネチア国際映画祭金獅子賞受賞と華々しい経歴を持つマンチェフスキ監督。それまで短編や音楽ビデオを手掛けていたそうだが、「ストーリーテリングが得意で、ずっと劇映画を作りたいと思っていた」と監督志望だった。「私にとって映画は書きものの延長にあると思っています。短編を作っていた時期はどちらかというと技術を学ぶための時間でした」と振り返る。
マンチェフスキ監督の祖国は、バルカン半島に位置し、1991年に旧ユーゴから独立、民族対立や近隣諸国との紛争を経験し、2019年からは北マケドニアという国名に変更されている。故郷の複雑な歴史的背景も、『ビフォア・ザ・レイン』製作のきっかけのひとつだったそうで「長い間ニューヨークで過ごし、マケドニアに久々に帰国するとき、故郷に戻るというほろ苦い気持ち、目の前に歴史的な出来事が起きていることを目の当たりにするような状況でした。そしてニューヨークに戻って、ショートストーリーを考えました。シンプルで、お互いに関係のない3つの物語を考え、最後に複雑性のある形でひとつの物語に融合されるようなものにしたのです」とその構成について説明した。
資金面での苦労を経験しながらも、完成した長編デビュー作がベネチア国際映画祭金獅子賞受賞、同年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネートと世界的な注目を集めることになった。「一晩ですべてが変わりました。それまでほとんど仕事がないような状況から、ハリウッドスターから「監督してくれ」と声をかけられるようになったり。そこで自分の正気を保とうとしました。しかしハリウッドのスタジオ制度の中では、自分の作りたいような映画は作れないということがわかりました。折り合いをつけてうまくいく監督もいると思いますが、私はそういったタイプではなかったのです。ハリウッド型よりも、ヨーロッパ型の関係の方が相性が良いと感じました」と状況の変化を語る。また、その後の第2作『ダスト』(01)が、当初はミラマックスの製作、ロバート・レッドフォードがプロデューサーの予定だったが、ワインスタイン氏との意見の相違があり企画が決裂したことなどを明かした。
トーク中には、キューバやニューヨークで撮影した短編も紹介された。「監督志望の方がいらっしゃるのであれば、どんどん撮影して欲しいと思います。映画の話をするよりも、撮影に時間を使った方がいいと思うのです」と監督志望の若者にメッセージを寄せ、「私は新しい挑戦が好きです。芸術家として新しいチャレンジに挑むことが、私を目覚めさせ、生を感じることです。芸術家として子どものように遊びつつも、実行の部分では厳格にやっていく、両方の側面が大事だと思います。ですので、私にとって、いろんなアプローチで映画を撮ることがその二面性を表すことだと思うのです」と自身の映画への向き合い方を語る。
今回、コンペティション部門でプレミア上映された最新作『カイマック』はこれまでの作風とは異なり、ライトなコメディタッチのドラマでありながらも、現代社会が内包する問題を二組の夫婦の生活のさまざまなトピックから示唆する。ヌードや同性愛の描写もあることから、北マケドニアがキリスト教徒が多数を占める国であり、また昨今の映画界における性的表現の規制に対する挑発の意図はあったのか? という質問に対しては「マケドニアは宗教性のある国ですが政教分離しておりますので、性的なシーンを撮影するということに特に問題はありません。マケドニアに限らず、どの社会にも人々を抑圧するような仕組みは存在すると思います。それに対しての抗議やイデオロギーの対立ではなく、社会問題の中心にあるのはいつも人。究極的に言えばこれは個人の自由についての映画です」と回答した。
そのほか、俳優に求めることや重要性、過去作の暴力描写などについて触れ、最後にイングマール・ベルイマンの「映画は暴力を英雄化して描く媒体ではなく、文学的に表現する媒体」という言葉を紹介。「ですから暴力を誇らしく描くのはなく、語っていく。それは人生にも通じるのではないでしょうか。映画によってはアクション映画の一部として描いている者もありますが、社会的な機能として暴力は良くないものであると抗っていくと、暴力そのものの描かれ方も違ってくると思います」と持論を述べた。
第35回東京国際映画祭は、10月24日~11月2日、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。なお、トークの模様は後日、東京国際映画祭YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/user/TIFFTOKYOnet)で視聴することができる。
ミルチョ・マンチェフスキ監督(右)とプログラミング・ディレクターの市山尚三氏
第35回東京国際映画祭と国際交流基金による共同トークイベント「「交流ラウンジ」ミルチョ・マンチェフスキマスタークラス」が10月27日に開催され、コンペティション部門出品作『
カイマック』のミルチョ・マンチェフスキ監督が、自作とこれまでのキャリアについて語った。
初の長編劇映画『ビフォア・ザ・レイン』(94)がベネチア国際映画祭金獅子賞受賞と華々しい経歴を持つマンチェフスキ監督。それまで短編や音楽ビデオを手掛けていたそうだが、「ストーリーテリングが得意で、ずっと劇映画を作りたいと思っていた」と監督志望だった。「私にとって映画は書きものの延長にあると思っています。短編を作っていた時期はどちらかというと技術を学ぶための時間でした」と振り返る。
マンチェフスキ監督の祖国は、バルカン半島に位置し、1991年に旧ユーゴから独立、民族対立や近隣諸国との紛争を経験し、2019年からは北マケドニアという国名に変更されている。故郷の複雑な歴史的背景も、『ビフォア・ザ・レイン』製作のきっかけのひとつだったそうで「長い間ニューヨークで過ごし、マケドニアに久々に帰国するとき、故郷に戻るというほろ苦い気持ち、目の前に歴史的な出来事が起きていることを目の当たりにするような状況でした。そしてニューヨークに戻って、ショートストーリーを考えました。シンプルで、お互いに関係のない3つの物語を考え、最後に複雑性のある形でひとつの物語に融合されるようなものにしたのです」とその構成について説明した。
資金面での苦労を経験しながらも、完成した長編デビュー作がベネチア国際映画祭金獅子賞受賞、同年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネートと世界的な注目を集めることになった。「一晩ですべてが変わりました。それまでほとんど仕事がないような状況から、ハリウッドスターから「監督してくれ」と声をかけられるようになったり。そこで自分の正気を保とうとしました。しかしハリウッドのスタジオ制度の中では、自分の作りたいような映画は作れないということがわかりました。折り合いをつけてうまくいく監督もいると思いますが、私はそういったタイプではなかったのです。ハリウッド型よりも、ヨーロッパ型の関係の方が相性が良いと感じました」と状況の変化を語る。また、その後の第2作『ダスト』(01)が、当初はミラマックスの製作、ロバート・レッドフォードがプロデューサーの予定だったが、ワインスタイン氏との意見の相違があり企画が決裂したことなどを明かした。
トーク中には、キューバやニューヨークで撮影した短編も紹介された。「監督志望の方がいらっしゃるのであれば、どんどん撮影して欲しいと思います。映画の話をするよりも、撮影に時間を使った方がいいと思うのです」と監督志望の若者にメッセージを寄せ、「私は新しい挑戦が好きです。芸術家として新しいチャレンジに挑むことが、私を目覚めさせ、生を感じることです。芸術家として子どものように遊びつつも、実行の部分では厳格にやっていく、両方の側面が大事だと思います。ですので、私にとって、いろんなアプローチで映画を撮ることがその二面性を表すことだと思うのです」と自身の映画への向き合い方を語る。
今回、コンペティション部門でプレミア上映された最新作『カイマック』はこれまでの作風とは異なり、ライトなコメディタッチのドラマでありながらも、現代社会が内包する問題を二組の夫婦の生活のさまざまなトピックから示唆する。ヌードや同性愛の描写もあることから、北マケドニアがキリスト教徒が多数を占める国であり、また昨今の映画界における性的表現の規制に対する挑発の意図はあったのか? という質問に対しては「マケドニアは宗教性のある国ですが政教分離しておりますので、性的なシーンを撮影するということに特に問題はありません。マケドニアに限らず、どの社会にも人々を抑圧するような仕組みは存在すると思います。それに対しての抗議やイデオロギーの対立ではなく、社会問題の中心にあるのはいつも人。究極的に言えばこれは個人の自由についての映画です」と回答した。
そのほか、俳優に求めることや重要性、過去作の暴力描写などについて触れ、最後にイングマール・ベルイマンの「映画は暴力を英雄化して描く媒体ではなく、文学的に表現する媒体」という言葉を紹介。「ですから暴力を誇らしく描くのはなく、語っていく。それは人生にも通じるのではないでしょうか。映画によってはアクション映画の一部として描いている者もありますが、社会的な機能として暴力は良くないものであると抗っていくと、暴力そのものの描かれ方も違ってくると思います」と持論を述べた。
第35回東京国際映画祭は、10月24日~11月2日、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催。なお、トークの模様は後日、東京国際映画祭YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/user/TIFFTOKYOnet)で視聴することができる。