2022.10.26 [イベントレポート]
「彼女たちの選択を問題と受け取る人たちがいるならば、むしろそれが問題だと思います」10/24(月) Q&A:コンペティション『ファビュラスな人たち』

ファビュラスな人たち

©2022 TIFF

 
10/24(月) コンペティション部門『ファビュラスな人たち』上映後、ロベルタ・トッレ(監督/脚本/編集)をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
市山尚三プログラミング・ディレクター(以下、市山PD):今日は監督のロベルタ・トッレさんが来ていらっしゃいますので、これからQ&Aを行います。トッレ監督はですね、以前、東京国際映画祭に『アンジェラ』*という作品で参加されています。その時は最優秀主演女優賞を受賞した作品です。
最初に一言、監督から皆さんにご挨拶をお願いします。

*『アンジェラ』第15回(2002)TIFFコンペティション部門出品作品。ドナテッラ・フィノキアーロさんが最優秀主演女優賞を受賞。

 
ロベルタ・トッレ監督(以下、監督):みなさんこんばんは。私はとてもうれしいです。私が愛している仕事を皆さんとご一緒に分かちえることができて、とてもうれしく思います。この物語は、自由と権利についての物語なんですけども、私はこの二つのものが共に歩んで、一緒に歩んでいくことが非常に大事だと思っております。この作品の7人の登場人物、主人公たちのご挨拶も一緒にお伝えしたいと思います。今はいませんけれども、心は一緒に来日しています。
 
市山PD:まず、この映画を作るきっかけ、とてもユニークな作品だと思うのですが、どういったところからこのストーリー、設定を思いつかれたのかということを、お訊きしたいと思います。
 
監督:この物語が生まれたのは、ポルポラ・マルカシャーノというこの映画に出てきている主人公のひとりですけども、彼女が何冊も本を書いているのですが、そのうちの本をいくつか読んでいます。5、6年前に読んだんですけども、とても興味を持ち、これを物語として映画化するときに、この物語に自分は恋するくらいだったんですけれども、それを映画化する際には、その物語の中に自分自身が映しこまれていなければならない、入っていなければならない、そういう要素を探していたんですけれども、この映画に出てきているアントニアの物語に出会ったときに、これだと思ったのです。
アントニアの物語は、すべてのトランスセクシュアルの人たちの物語です。彼女たちの人生の物語をすべてを失う形で男性用の黒い服を着せられて人生を終えなければならなかったという、そういう物語なんですね。それがアントニアの物語でした。
私が考えたのは、この暴力に対してどうやってどう戦うか、どうそれを抗うかってことで、交霊術によってアントニアを呼び出し、彼女の意思で本来着たかった服装で送り返す、それによって正しいことを与えるという形を考えました。
これは物語としてはフィクションなんですけれども、彼女たちの一人一人がそういう風に感じていて、それを彼女たちに演じてもらうっていうのは特に問題がなかったと。これが彼女たちの本当の物語でしたし、たくさんのインタビューをし、その彼女たちの経験を聞いた結果、生まれてきた物語です。
 
Q:主にアメリカで進んでいる潮流として、映画業界においてトランスジェンダーやジェンダークィアなどジェンダーのマイノリティの人々の俳優に限らず、プロデューサー、技術スタッフなどの状況などが是正されるような動きがありますが、イタリアの映画業界において、そのようなことがあるのかどうかお聞きしたいです。
 
監督:イタリアではトランスジェンダー、トランスセクシャルの人たちにとって、それほどネガティブな状況ではないのではないかと思います。この映画の中でも描かれているように売春が唯一の生きる手立てだ、という人たちもある程度いるので、全ての人が素晴らしいというわけではないです。ただ最近に関しては、新しいジェネレーションの人たちが生まれてきているので、マイノリティーの彼らや彼女たちは、今までとは全く違う生き方をしています。
実際のところ、キャストの彼女たちと一緒に仕事をしていて、映画の撮影時もそうでしたが、プロモーションの際にも、やはり一般の人たちからの信じられないような、信じてもらえないようなある種の差別的な要素を感じることはありました。
この映画が色々な場所で上映されて、主人公たちと一緒に観に行くこともありましたが、観客の方たちは、それまで全く知らなかった世界を知ることができ、トランスジェンダーの人たちは自分たちの想像の世界の生きていると思っていたけれども、この映画で彼女たちの人間的な部分に触れることができたことによって、非常に愛情をもって迎えられた、ということがありました。
ファビュラスな人たち
 
Q:東京国際映画祭への質問ですが、こういったトランスジェンダー、セクシュアリティ、マイノリティに関する作品の映画上映を行うにあたり、マイノリティに関する知見をもった映画評論家やジャーナリストの方々に、あるいはそのような映画祭などを開催しているレインボー・リール東京などにアドバイスを求めながら内部準備をされたことがあればお聞かせください。
 
市山PD:監督への貴重な質問時間を削るのは忍びないので簡潔にお答えしますが、東京国際映画祭のセレクションを行うのは今年2年目で、今まではそういうことに注意が払われていなかったのではないかという気がしています。実際に応募される作品にも増えておりますし、おっしゃられていたことについては考えながらやっていかなければならないと思っております。
 
Q:監督が考えるトランスジェンダーの方を含めたすべての人の理想とはどういうことなのでしょうか。コンペティションにこの作品を選ぶこの映画祭はそういった意識が高いと思いますが、どういった配慮のなされた社会の形が監督の理想でしょうか。
 
監督:トランスジェンダーの人達は、性別を含めた人生の選択をしたわけですね。それは彼女たちの選択であり、受け取る側の人たちがそれを問題とみるのであれば、むしろそれが問題だと思います。
 
Q:とても驚いたのですけれども、作品の中で売春だとかという形の今まであまりこういう作品の中で触れられたことのないようなところが全てに出てきているというのがすごく驚きました。監督がそういうことを触れたというのはどういう意図があって触れたのかということを教えてください。
 
監督:売春については、ポルポラ自身が語ったことですし、人生の経験としてあったことで、生き延びるためには他に手立てがなかったということですね。他の仕事をすることも出来ず、他に全く選択肢がなかった。唯一の手立てとして売春を選んだということで、彼女たちの誰一人としてそれを最初に選ぼうとしてやっているわけではないです。この映画でのインタビューに関しては、ほとんどが事実そのもので、彼女たち自身の物語を彼女たちが話してくれたものを私が集めてお伝えしているという形になります。
 
Q:今回こちらの物語に素敵なお屋敷が出てきますが、どのように選ばれたましたか?
 
監督:この撮影はボローニャで数週間行われました。撮影場所として2つの候補があったうちの1つだったんですね。どういった家を探していたかというと、捨てられて廃屋になっている、ずっと住む人のいない家が欲しかったのです。幸いにこの家を見つけることができました。この家は70年代からもう誰も住まなくなっていたのです。なぜかというと(住人の)兄弟が喧嘩をして争ったせいで誰も住んでいないっていう場所になったのです。時の穴みたいなものが空いていて、そのまま家に何の変化も起きていない場所だったんですね。時間が止まったような場所であったのです。埃だらけで電話がいくつもあったり、カーペットがボロボロになっていたりとか、そういった状況が、自分としては最高だったのです。ボローニャの丘の外側にある屋敷なんですが、面白いことに撮影している時はみんな本当にポルポラの家だと思って撮影していました(笑)。

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