2022.10.25 [イベントレポート]
伊藤智彦、上野俊哉、藤津亮太が語る「アニメと東京」何度も壊され、記憶や歴史が残らない都市・東京
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登壇した藤津亮太氏、伊藤智彦監督、上野俊哉氏(左から)

第35回東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門マスタークラス「アニメと東京」が10月25日、都内で開催された(無観客で開催・収録)。特集として上映される『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』(以下、『オーディナル・スケール』)監督の伊藤智彦氏、押井守監督を論じた著作がある批評家・和光大学教授の上野俊哉氏が登壇し、アニメ評論家の藤津亮太氏による司会でアニメが東京をどのように描いてきたかが語り合われた。

最初に藤津氏から「アニメと東京」のテーマを設定した理由が語られ、アニメで描かれた東京のアイコンが、西新宿の高層ビル群、東京タワーや首都高速道路、渋谷スクランブル交差点などに変化していった経緯が説明された。今回の特集で上映される『幻魔大戦』では盛り場、『メガゾーン23』『機動警察パトレイバー2 the Movie』では戦後日本の象徴、『オーディナル・スケール』では若者たちの町としての東京が制作当時の風俗を記録しながら描かれているという。

藤津氏から東京が舞台のアニメで印象深いものを訊ねられた伊藤監督は、『幻魔大戦』と同じりんたろう監督の『X(1996)』を見て「東京は壊してもいい町なんだなと思った」と振り返り、東京には記憶に残る建物がたくさんあると話す。上野氏は東京の破壊が描かれた『AKIRA』を挙げ、実際の東京も何度もスクラップ&ビルドされてきたところが他の国の都市とは違う特徴なのではないかと語った。

『オーディナル・スケール』では、原作者の川原礫氏の強いこだわりで作中のギミックがVR(仮想現実)からAR(拡張現実)に変更された。舞台として都内の秋葉原UDXや恵比寿ガーデンプレイスなどが登場し、作中ではARによって装飾されて“上書き”されている。上野氏は、「ARとVRのギャップが描かれているのが面白かった」と同作の感想を述べながら、常に景色が変わり続けて記憶や歴史が残らないのが東京という都市の特徴ではないかと指摘する。特集で上映される『メガゾーン23』が「本当に好き」と語る上野氏は、記憶の忘却や改ざんが描かれてバーチャルアイドルも登場するなど、現在に通じるリアリティを感じさせるところは『マトリックス』よりも先駆けていたのではないかと称賛した。

押井監督の代表作のひとつである『機動警察パトレイバー2 the Movie』についても話が弾んだ。同作のレイアウトを収録した書籍「METHODS」の初版をもっているほどのファンだという伊藤監督からは、「名うてのアニメーターの方々が描いたレイアウトの説得力、絵にしたときの“それっぽさ”が素晴らしい」と実作者ならではの視点で解説。30年近く前に押井監督に同作についての取材をした上野氏は、絵コンテを見せてもらいながら同作の構造を聞いて驚かされた思い出を語りながら、『パトレイバー2』には押井監督ならではの東京への屈託や愛憎が感じられるところが面白いと分析していた。

第35回東京国際映画祭は、11月2日まで開催。イベントの模様は、後日YouTubeの公式チャンネルで配信される。
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